第218期 #3

忘れ物代行屋

なに、簡単なことですよ。あたしたちは身体が無いでしょう。だからそのぶん、勘が鋭くなるんです。
ええ、未来の予言だなんて、そんな大それたことはできやしません。ただちょっとばかし、見える世界が広いだけでね。


そもそも、生きてる人ってのはどうしてこう、注意力が散漫になるんでしょうね。
きっと生きることに夢中で、周りがとんと見えなくなっちゃうんでしょう。
あたしたちはもう、生きる必要が無いからね。忘れることが無いんです。


この仕事もね、最初は親切心から始めたんですよ。あの人たちが見えていないところを、あたしたちが手助けするんです。
もちろん、貰うものはきちんと貰ってますよ。半端に甘やかしたせいでしょうか、やることがうんと増えちまいましたから。


でもまあ、おかげさまであたしたち、大盛況ですよ。そのせいで担当がすぐに変わっちゃうんだけども、これが結構しんどいんです。
忘れ物の癖って人それぞれでしょう。それがコロコロ変わるんじゃあ、こっちも気疲れしますよ。
くれぐれも言いますけど、あたしたち、超能力なんてありませんからね。


けどね、やっぱり世界ってのは綺麗なもんです。ずうっと見ていたくなりますよ、終わりの方までね。
あたしたちだって、長く居られるわけじゃないんです。時間がくれば湯気みたいにね、消えちまいます。
だから、お給料としてちょっとね、寿命を頂戴しているんです。お金なんてのはあたしたち、とっても使えませんから。
ええ、こちらもあちらも、時間を伸ばす方法はおんなじです。もっとも、あの人たちは気付いてないみたいですけどね。
「自分には守護霊が憑いてるんだ」なんて吹聴して、いい気なもんです。そんな好いものが憑いていればいいんですがね。


しかし、驚きました。霊媒師の方って、本当に見えちゃうんですね。ふふふ。あたしもついに、ばれちゃった。
でもね、この人の身体が悪いのは、自業自得ってもんですよ。気を張ることもせずに無駄遣いしちゃって、さすがにあたしも、面倒見きれませんって。
まあ出来ないことを補う者同士、仲良くしようじゃありませんか。あなたもお給料、貰ってるんでしょう。いい商売ですよね。お互いに。


あなたも気を付けて下さいね。あたしたちみたいなの、そこらにいっぱいいますから。
生きることに気をとられて寿命を疎かにしちゃあいけませんよ。
なんだかんだ言って、自分の身を守れるのは、自分しかいないんですからね。



Copyright © 2020 大町はな / 編集: 短編