第217期 #2

多数決

 ―裁判―
ある国の裁判所で、裁判官たちがある被告人の量刑について眉間にしわを寄せ話し合っている。

「被告人司馬佐紀の刑はどうしようか」
「司馬は残虐な行為によって一人殺してるけど、それでも一人殺したからといって、死刑は行き過ぎだろ…」
「でも残虐性があっても死刑じゃなかったら、大衆はどう反応するかな。」
「確かに。」
裁判官たちは閉口した。いつもは被害の大きさや動機、犯行の様態、前科などさまざまな要素を踏まえて量刑を決めていたが、最近は世間の目が厳しい。我が国の裁判は閉鎖的である。そのためか、実態を把握しづらい国民は論拠なしに裁判所に感情を求める。
あんな残酷な奴が死刑じゃないの?この国の司法は腐ってる。
裁判官の家族がこんなむごいことされたら裁判官も死刑にするでしょ。
こんな罵声、ネットでは日常茶飯事だ。反論しても無駄だろう。
それでも、司法の信用がなくなるのは本望でない。

話し合いから2時間後
ある裁判官が口を開いた。
「じゃあ、直接聞いてみるか。」
他の裁判官たちは唖然としていた。
「どうやって?」
「調査でも何でもやればいいだろ。」
「わかった。」
裁判官たちは、重い腰を上げ裁判所をあとにした。


一か月後
「よし、集まってくれてありがとう。被告人司馬佐紀の刑についての調査をして、結果が出たよ。」
「どうだった?」
神妙な顔で恐る恐る尋ねた。
「死刑」
顔がほころんだ。
「じゃ、じゃあ死刑でいいか。」


数年後
「窃盗で捕まった大司(おおし)翼の刑はどうしようか。」
「大司は窃盗の常習犯で、捕まったのはこれで20回目だぞ!」
「しかも、こいつは貧困層をターゲットにしている。被害者の中には、大司の窃盗で金がなくなって心中した一家もあるみたいだぞ。」
「まじか。だが、さすがに死刑はないだろ?」
「うーん。でも死刑じゃなかったら、大衆はどんな反応するかな。」
「よし。聞いてみるか」
「またか」
以前の裁判とは違い、淡々と話し合いが進められていった。


一か月後
「よし。被告人大司翼は死刑だ。」
「おーけー」

一年後
裁判は円滑になっており、刑事裁判だけでも一日30件はこなしていた。
「被告人、田井司は横領だったな。」
「うん」
「こいつはやり方が汚い。感情論で死刑だな。」
「うん。国民も納得するだろう。」
「よし、死刑。」
決め方に抵抗はなかった。



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