第215期 #5

五月雨のお見合い

「雨、止んじゃったね」
しずめさんは少し物足りなさげに笑って僕に言った。僕は何も答えなかった。でも多分、しずめさんと同じ気持ちであることは僕は悟ることができた。
「雨なんて最低だと思う。…嫌いなんだ。でも今、神様がなんで雨を降らすか分かった気がする」
そんな分かったようなことを言っても現実は変わらないのは分かっていた。でもちょっとしたこれは心の抵抗でもあった。
「そうね、神様は幸せが好きだから」
諦めきったしずめさんの横顔は少し黒髪が湿気っていて艶やかに見えて美しかった。どんなに足掻いたって届かない横顔は美しくて儚い。
「もしかしたら、って考えたことはあるけど、本当にこれが僕の、いや僕らの最善なのかな」
「いいえ、これがきっと世の中なんだわ。すべて天の神様の御心のまま。私たちが言える最善なんてこれっぽっちもないもの」
しずめさんは小さく右手を輪にしてにこっと微笑んでみせた。クロガネモチの木から落ちてきた雫が頬をひたりと濡らした。
「なんか、少し明るくなってきたね」
遠くの空を見た。真っ青な五月の晴れ間が僅かに垣間見えた。
「そうね」
―私行かなくちゃ、そう掠れそうな声でしずめさんが呟いた。
僕は黙っていた。でもしずめさんの袖を掴むことなんてなかった。

…僕と彼女のそんな思い出



Copyright © 2020 志水雄希 / 編集: 短編