第215期 #13

ケモミミカフェ

 ウサギの耳が生えてしまった。
 触るとフサフサしていて弾力があり、神経も通っているので、切るとたぶん痛い。
 これは戦争に負けた代償であり、戦勝国側は賠償請求をしない代わりに、敗戦国民の百人に一人の割合で獣耳が生えるという呪いをかける権利を要求した。そして敗戦した私の国はそれを受け入れ、結果として百分の一の確率で、私の頭にウサギの耳が生えてしまったというわけだ。
 戦争に負けた代償がこれだけで済んで良かったという人もいる。
 しかし、獣耳が生えない人がほとんどなので、私は不公平だと思った。
 話によると、獣耳の呪いは五十年は続くとされているので、三十歳以上の人は、ほぼ死ぬまでそのままということになる。
「でもお金が貰えるし、カワイイからいいじゃない」
 そう妹は言うが、お金の問題じゃないし、私には可愛さなんていらない。
 お金と言うのは、国から支給される獣耳手当のことであり、対象者は毎月一万五千円貰えることになっている。つまり、毎月一万五千円やるから獣耳になったことを我慢しろということだ。
 妹は電卓を引っ張り出して、計算を始める。
「五十年は六百カ月だから……、トータルで九百万円も貰えるじゃない!」

 私にとっては獣耳なんて屈辱でしかないのだが、中には獣耳を前向きに捉えている人もいる。その代表的な存在が、本物の獣耳を持った人がウエイターやウエイトレスになるという“ケモミミカフェ”だ。
 基本的には、「ご主人様、エサを下さい」とか「抱っこして」とか、そういう恥ずかしいやりとりをするところである。そして店によっては、追加料金を払うと獣耳を一分間だけ触れるといったサービスもあるらしい。
「面白そうだから、一緒に行ってみましょうよ」
 そう妹に言われたのがきっかけで、後学のためとかいう理由をつけてケモミミカフェの扉を開けると、私の獣耳を見たウエイトレスの表情が少し曇ったのが分かった。
 ここは傷を舐め合う場所じゃない、という空気。
 やっぱり帰りますと言って背を向けると、獣耳のウエイトレスが私の腕をつかんだ。
「ごめんなさい。ここには誰が来てもいいんです、ご主人様」
 私と妹は席に座り、飲み物を注文した。
 そして私は色々なことを考えて、獣耳のウエイトレスに、私の獣耳を一分間触ってくれませんかと注文をした。
 ウエイトレスは店長と三分ほど相談したあと、席に戻ってきて笑顔を見せた。
「追加料金が、千円になります」



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