# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | 気があるのかな? | 小説作家になろう | 475 |
2 | 少女X | 雪灯 | 929 |
3 | やせた動物 | euReka | 1000 |
4 | 滲 | ハンドタオル | 981 |
5 | ソーセージ侍 | アドバイス | 951 |
6 | マイブログ | 糸井翼 | 751 |
7 | マジナイ | わがまま娘 | 1000 |
8 | スクリーンの向こう側 | 千春 | 921 |
9 | 5:43-44 | テックスロー | 1000 |
10 | みらてる | 志菩龍彦 | 992 |
11 | 春を解き放つ | たなかなつみ | 999 |
12 | そうして書き終えた私も上を仰いで同じく叫ぶ | えぬじぃ | 1000 |
「あれ、親切なこだなぁ」 思わずつぶやいた胸の内
向こうもちょっとはみ出している感じウフフと笑うような、、、
「あれ、このこチョッと気があるのかなオレに、、、」
妄想するわけじゃないけど想像するのは楽しいじゃないか。
ご飯はどこかで食べるんだしこんな気持ちで浮き上がってたら
飲み込むご飯も甘さもひとしお。うれしい。
さて、もっと発展しないかな? でもなぁ、結婚してるの?
とか聞いてはっきり答えないんだよなぁ、その上旦那が同じ店で働いていて、 そんなことがあると噂になるのか、誰かが旦那に耳打ちするんだろうなぁ、、、
旦那に睨まれたりして、 あんなのはイヤだし、
今度はもっとうまく、、、まぁ、しばらくは気があるのかな? そうおもって、見ながらたのしむか・・・
そう思うとなんだかご飯ものどオリがイマイチ。 こういうときはなにをどう考えたら
いいのかなぁ。
ああ、そうかオレがあのこを好きなのか? どうか? だな。親切にされたら好きになる
決まってるじゃないか。それじゃ、はじめに戻って、あのこオレに気があるのかな?
妄想じゃないんだが考えるのはたのしいな・・・
「お前、俺のことそんな好きじゃなかったよな。そんくらいわかるわ、態度が全然違うし。」
そう言って振られたのはたった2時間前。今、私は知らない人の家でセックスをしている。行為後、隣でたばこを吸っているのは居酒屋で一緒にお酒を飲んでいた相手。顔が少し好みだったから、そんな単純な理由。どこの誰かなんてどうでもいい。この寂しさを埋めたかった。
「好きだったのかなぁ。」
小さくつぶやいた私の頭を撫で、やさしく抱き寄せてくれた彼だって傷心の女がヤりやすくて誘っただけ。そして一回行為に及んで変な情をもっているだけで本気で心配してくれているわけじゃない。けど、そんな偽りのやさしさで私はあたしを成り立たせてきたし、今日もそれにすがっている。彼を好きだったなんて思う資格、私には無いことくらい理解してる、けど人間の性ってやつなのかな、そこまで好きじゃないのに離れそうだと惜しくなるし、悲しくなる。自分だって同じようなこと、もっとひどいことやっているのにね。笑っちゃう、ほんと私って。2人の関係に名前なんてなかった。自分から突き放して相手が離れそうなら引き寄せようとする。その頃には相手の気持ちはもう私のところには無い。その繰り返し。次も同じなんだろうな。もう何年も本当の意味で人に執着してない。多分これは愛情の欠乏による寂しさを埋める行為で、相手は誰だっていいんだ。だからこそ私は隣にいる彼の名前も知らない。上辺でも私を好いていて、愛を囁いてくれ、セックスをする。正直誰だってよかったし、今もそう思ってる。ただ、自分のいる意味を肯定してくれたらいい。執着できる人、どこかで出会えたらいいな。色々と考えているうちに眠たくなって、彼に抱きしめられながら目を閉じた。目が覚めると隣に彼はいなくて机のメモにこう書かれていた。
“カギはポストに入れておいてください。朝食にサンドウィッチ作ったのでよかったら”
メモの上にカギとサンドウィッチがあった。私は近くにあったペンで“ありがとうございます”と書き、サンドウィッチを被せてあったラップでくるんで家を出た。鍵をポストに入れ、空を見上げると曇り空で今にも雨が降りそうだった。先日梅雨入りが発表されたことを思い出しながら最寄りの駅に向かった。
やせた動物に道をたずねると、棒のように細長い頭で方角を指して、あっちだと言った。
しかし、あっちは先ほど見てきたから多分違うし、やせた動物は道を知らないのだろうと私は思った。
このあたりの風景はすべて赤く燃えていて、会う人はみな黒焦げになって転がっている。
だから、私はそいつに話しかけるしかなかったのだ。
「ところで君はここで何をしているんだ」とたずねると、やせた動物は煙草を吹かしながら、今俺は煙草を吸っているところだと言った。
「いや、そうではなくて君はどこからきて、なぜここにいて、これからどうするのかということをたずねているのだ」と私が言うと、やせた動物は、アンタこそここで何をしているんだと問い返してきた。
それにしても、目の前には死体がゴロゴロと転がっているのに、私は妙に冷静な気持ちでそれを眺めていた。なんとなく、こんな地獄のようなことになるのは分かっていたから、ああやっぱりなという諦めの気持ちかもしれない。
「私の行きたかった場所もきっと燃えてしまっただろうから、君に聞くまでもなかったな」と私は、やせた動物のほうを見ないで言った。「その場所には恋人が待っていてね、一週間ぶりに会うことにしていたのさ」
やせた動物は煙草の箱を差し出して、アンタも吸うかと私に言った。
もう何年も煙草を吸うのをやめていたのだが、久しぶりに吸ったらどんな味がするかなと思い、箱から一本抜き出して口に咥えた。
やせた動物がライターで火をつけてくれたので、フィルターからゆっくりと煙を肺に吸い込むと、昔煙草を吸っていた頃の感覚がじわじわと蘇ってきた。別にその頃から何かが変わったわけではないが、昔の感覚を思い出すと脳がひりひりするのを感じる。
「本当はね、恋人なんていなかったんだよ」と私は、赤く燃える風景を見ながら言った。「話が混乱して君も面食らっているだろうけど、今はそんな気がするんだよ。久しぶりに煙草を吸ったせいかな」
もう一度たずねるが、アンタはここで何をしているんだ、とやせた動物は言った。
「もう少しこの風景を眺めていたいだけさ。酒を一杯飲んだら眠るよ。現実は酷すぎるからね」
そう私が言うと、やせた動物はますます細い形になって一本の槍に変化した。
そして、これで現実を刺せ、と良く分からないことを言い残したきり、その槍は何も言わなくなった。
「ふーん」と言ったあと、恋人はその槍で私の心臓を刺した。
昔々、下総の国のとある農家の土壁に、大きな黒いシミがありました。
いつの間に染みたのか、なんの汚れなのか解りませんが、そこのお百姓さんが生まれた時からずーっとそこにありました。
そのシミは、よく見るとなんだか人の形をしているようで、布で拭えばすぐに落ちそうですが、何だか祟られそうで怖くてそのままにされていたのでした。
ある時、一匹のイタチがその家に忍び込むと、その人型のシミにびっくりして、食べ物には目もくれず、一目散に山に逃げていきました。
そんなイタチの話を聞いた、山一番のきかんぼうのヤマネコおやぶんは「ふん、よくわからんが、そのくろいやつがこわくなって逃げたのか、情けないやつだ。俺は、なんも怖くねえ。」
いうが早いか、ヤマネコは一目散に夜の山を駆け下り、イタチから聞いたその家に忍び込むと、干し柿だの米櫃だのを手当たり次第に食い散らかして、シミの前に仁王立ちしました。
「イタチの野郎め、なんのこたねぇ、壁のシミじゃねぇか」
と、首をふりふりおひゃくしょうの家を後にしました。
目が覚めたおひゃくしょうさんは、荒らされた我が家を見るなり、「やっぱりあのシミは妖怪だ。黒いシミの妖怪がオラが寝てるうちに家を荒らしたんだ」と言って、すっかり震え上がっていると、一人のお坊さんが通りかかりました。
おひゃくしょうさんから事情を聞いたお坊さんは家の中を見ました、お坊さんは家の中にいっぱいになった匂いで、「これはヤマネコの小便の匂いだ」と、すぐにわかりましたが、あえておひゃくしょうさんには言わずに「今から妖怪を鎮めますから、ネギを一本持ってきなさい」と言って、壁のシミの前に立ちました。お坊さんはヤマネコがネギの匂いが嫌いなのを知っていたので、壁のシミにネギをすりつぶした汁を塗り付けました。
そしておひゃくしょうさんに
「妖怪なんてとんでもない。ありがたい仏様がここに現れているのです。毎朝毎晩拝めば、米櫃を食い荒らされたり、干し柿を盗まれたりする事もないでしょう」
と言って立ち去って行きました。
それからヤマネコが来る事もなく、おひゃくしょうさんは半信半疑で毎朝毎晩、なんだかネギ臭いそのシミを拝みました。
いつからか村人たちも、そのシミを拝むようになりました。
あれから五百年、そのシミはいまだに、古民家の壁にあって、いまだにみんな拝んでいるそうじゃ。
ソーセージ侍はソーセージが大好きな侍なので、村のみんなからソーセージ侍と呼ばれている。あとよく人を殺す。この前も、ここから三軒先の家の子供がすれ違い様に袈裟懸けにされた。理由はわからない。そしてわかる必要など無いとこの村の誰もが思っている。まず奴は刀を所有している時点で他人を斬ることが可能だし、我々は持っていないのでそれが出来ない。出来ないので出来ないし、出来るからやってもいい。この論理の外側の価値観は今のところこの村には無いので、我々はこの刀を持った狂人を天災の一種と見なして付き合っていくしかないのだ。中にはこれを神の所業と捉えて「天罰」と畏れる者もいたが、どう解釈しようとソーセージ侍の刃に理由が宿ることはなく、全ての年齢、人種、性別の者は元より、有機物、無機物、ありとあらゆる存在が分け隔てなく刀の錆となった。村の老人達によるとこの村はかつて栄えていたらしいが、駅ビル、ビームス、時差式信号機、アップルストアー、スリーエフ、てもみん、ABCマート、押しボタン式信号、アカチャンホンポ、タワーレコードなどの建造物は尽くソーセージ侍によって切り刻まれ、辛うじて残ったのが村の中心で偶像として鎮座しているリンガーハットだという。斬る対象が無差別と言えど、リンガーハットの屋根の鋭利さは狂人に生理的な恐怖を与えたのかもしれない。加護に肖ろうと、村人達は今日も皆店の前に列を成している。私は素うどんは好きではないので並ばないが、その昔、リンガーハットの麺といえば黄色い中華麺で、上には野菜がたくさん乗っていたらしい。それも今ではこの蟻のように群がる信心深い連中によって全て食い尽くされ、あのようにはなまるうどんと区別が付かない代物を売っているというのだ。苛つく。そもそもメルカリに斬鉄剣を出品した非常識な奴にも腹立つし、それを購入して侍を自称する異常者にも、そしてその異常者に好きな食べ物由来の呼び名を付ける村人達のセンスにも私はブチ切れそうだった。そして実際にブチ切れたのが先程だ。私はヤフオクで村雨を競り落とした。狂っているか否かはいつの時代も多数決だ。大勢の中で一人だけ狂っているから狂人なのだ。それなら二人にしてやる。俺はソーセージ侍側に付く。これによって村の狂いを薄める。待ってろよ、貴様ら。
一応アイドルを自称しているので、インターネットは苦手でも、ネット情報の発信や視聴者やファンの反応には神経質なつもりだ。今日も私は仕事の合間にエゴサーチしている。
アイドルといっても、人気はまだまだだからエゴサーチしてもなかなかヒットしない。でもまとめサイトやウィキペディアの自分のページを見つけたときは嬉しかった。小さい役でもテレビに出ると反応もあった。
そんな中、たまたまツイッターを検索していたら、私のブログを紹介してくれている人を見つけた。そのブログを見てみる。
ブログといっても短い日記と写真みたいなものだ。
6月18日21:00
今日はとある仕事の後、プライベートでホタルの里公園に行きました。アイドルがいたのに誰にも気づかれないwマスクしてたし暗かったから!写真は駅のです。
(写真はこちら)
6月19日21:00
朝の電車が遅れていて、仕事の現場で食べる予定だった朝ご飯が食べれませんでした。ダイエットw
今日は金曜日、明日お休みの方は今週お疲れ様!そうじゃない方、一緒に頑張りましょう!
6月21日21:00
仕事の現場に以前お世話になった先生が偶然いらして感動しました。先生は訳あって写真NGなので、載せられないのが残念!代わりに私の高校時代の写真をどうぞ(なぜw)
(写真はこちら)
ブラウザーのバックボタンを押した。
私のことが詳細に書いてある。だが、私はこのブログをやっていない。
なりすまし?ストーカー?
…こんなに詳しく書ける訳がない。外で偶然見かけた、とか出演情報なら調べればわかるのでそれはともかく、プライベートで誰にも声かけられなかったこと、とか、仕事の現場にいないと知り得ないことまで書いてあるのだから。
「そろそろ出番だよ」
私の女性マネージャーが声をかけた。
私は、彼女の顔を見ることができなかった。
炎と戦いの軍神・マルスが宿るその石は、不死の命が得られるらしい。
「これを作ってくれる人を探している」
どうしてここまで来たのでしょう? という疑問を抱えつつ、暑い中コートのフードを被った男が差し出してきた袋の中を見た。
「触っても良いですか?」
「どうぞ」というので、ひとつ袋から取り出した。直径2センチほどの球体だった。食べ物だというので、取り出した球体を袋に戻すのもどうかと思ったので、適当な小皿に置いた。つまんだ指先についた結晶を舐めてみる。甘い。
「残りわずかとなったため、これを作ってくれる人を探してここまで来た」
確かに袋の中には自分が取り出したものを除いて、残り4玉だった。
「あなたなら作れるのではないかと街で伺ってきた。どうにかならないのか」
「いや……」
男を上から下までじっくりと眺める。
「お国の者に作って頂いたらよろしいのではないでしょうか? どこの馬の骨ともわからぬ輩が作ったものではご心配でしょう」
お引き取りを、とドアを閉めたつもりが、閉まる直前に男の足がドアをとめた。
「もう、あなたしか頼る者がいないのだ」
「は?」
そんなわけないだろう とそこまで出てきて飲み込んだ。
おたくらの戦争に巻き込まれたくもないし、そんな胡散臭いもの作りたくない。
「どうぞお帰りください」
一旦力を緩め、全力でドアを引く。ドア枠とドアに挟まれる瞬間に男の足はすっと避けた。
ドアの前にまだ男はいる。大きな溜息をついて、小皿に乗った甘い球体を見る。
細くドアを開いて、小皿を地面の上に置いた。
サッとドアを閉じて「お持ち帰りください」伝え、男が立ち去るのを待つ。
慣れているのか、男は全然立ち去る気配がない。参った。
アレはホメオパシーなのだろう。鉱石の種類はわからないが、男の身なりから想像するに、ルビーだと思う。軍神マルスが宿り、不死の命が手に入るというルビーを体内に取り込んで……、という意図なのだろうか。ただ、個人的にはただの糖分摂取にしかならないと思っている。いや、エネルギー補給にはなるのか。ついでにマジナイでもってこと?
作った者の意図はわからない。
「あのさぁ」ドアの向こうの男に語り掛ける。
「ルビーって守護の意味が強いけど、私は導きの石だと思うの。取り込んだりするんじゃなくて、ルビーの指し示す方に向かっていくのがいいんじゃない?」
アンタの主の体のためにもさ。
暫くして男の足音が遠のいて行き、安堵の溜息が漏れた。
二人の出会いは文字のやりとりから始まった。
今流行りの出会い系アプリ。
なんとなく話し相手が欲しかった充希が何の気なしにいいねをした相手が彼だった。
充希は彼のプロフィールを見て共通の話題を見つけた。
「音楽が好きなの?何が好き?」
それが始まりだった。
2、3日やりとりした後、LINE交換を手早く済ましたら、彼はすぐにアプリを消してしまった。
充希が
「アプリ消すのむちゃくちゃ早いね。笑」
と冷やかすと、彼は静かに
「相手は一人いればいいから。」
と答えた。
その後、やりとりは毎日続いた。
趣味の話、家族の話、友達の話、仕事の話、最近ハマってること、今日何をしていたか。
ただの日常をたくさんシェアしあった。
時には2時間を超える長電話をすることもあった。
写真でしか知らない2人。
寝る前には「明日も頑張ろうね」と言葉を交わし、お互いの存在が励みだった。
話している間は時間を忘れるほどだった。
でも、充希たちは友人だった。仲のいい友人。
それ以上の仲に深まることはなかった。
彼には前妻との間に子供が居た。4歳の男の子。
彼の愛情はすべてその子に向けられていた。
だから彼は充希に今以上を求めなかった。
それに充希は結婚したい気持ちがあった。
それを知っていた彼は充希に遠慮していた。
自分が今誰かと付き合えばその人の大切な時間を浪費してしまうだろうと彼は出会った頃に話していた。
充希は彼が好きだった。
2人の関係は平行線だった。
ある時、充希は友達の紹介で別の男性に会うことになった。
そのことをあの彼に言うべきか悩んでいた。
もしかしたら妬いてくれるのかもしれないという期待もあったが、
所詮インターネットでしか知らない間柄。
他の男性と会うことで2人のやりとりが途絶えてしまうことが怖かった。
「今度友達が男の人を紹介してくれるみたい。」
やっとそう切り出したのは、紹介を受ける日の前日だった。
彼は、
「よかったじゃん!がんばれよ」
そう答えた。
いつもどおりのやりとり。
充希は彼が今どんな顔をしてメッセージを送ったのか気になったが、
画面に映るのは文字と親指を上に突き上げた絵文字だけだった。
ぼうっとしていた充希のスマートフォンに、
「俺がちゃんとLINEを返してるのはお前だけだよ」
と文字が光った。
それはある動画投稿サイトにアップロードされた、9分あまりの短い映像だった。動画のサムネイルには、さえない風体の、中肉中背の男が映っていた。一見、よくある配信風だが、それにしては煽り文もなく、何より男が無言であるため、テスト動画の誤アップロードのように映った。9分の間、男がカメラには一度も視線を向けずその下方を見ていることから、コンピュータウィルスに冒されたパソコンが勝手に盗撮した映像のようにも思われた。男はメガネを掛けていて、見たところ中年にさしかかっているが、幼さを顔の端々に残していた。男を正面から映す、ただそれだけの動画だが、特筆すべきはその表情だった。それは怒りそのものだった。しかし憤怒の形相とは違う。顔のパーツ、たとえば眉間や、目尻、口元や鼻の穴、肩の動きなど、怒っている人に共通して表れる特徴が何一つないのに、全体で見れば男は怒っているのだった。
発表当時、動画には何の反響もなかった。中年男の顔を映しただけの動画は、評判になるはずもなく、毎日投稿される膨大な数の動画にすぐに埋没した。それから五年後、動画がにわかに注目を浴びることとなったのは、男の顔がある連続殺人の犯人像に似ているという流言がネット上でわき上がったためだった。匿名掲示板、SNS、短文投稿サイトの順に動画が拡散した。良識ある、もしくは自称良識のあるユーザーからの擁護や、犯人の写真や似顔絵は公開されていないという警察の否定にもかかわらず、動画の閲覧数とそれに対する低評価が爆発的に増えていった。良識派のユーザーも、その男の動画を見ると、やがて男を殺人犯と断定するようになった。理性を超えて人を不快にさせる怒りがその男の顔には宿っていた。
当然男の正体探しは行われたが、まったく身元は特定できなかった。ついに男の動画はマスメディアに載り、男は国民の怒りを一手に引き受ける形となった。その後しばらくして連続殺人犯が捕まり、顔も公開されたが、はたして殺人犯の顔は男には似ても似つかないものだった。その日を境に動画の拡散と閲覧数は止まり、観測する限り男に対する謝罪は一切ないまま、男の顔は人々の記憶から完全に消えた。
その動画の5分43秒から44秒の間。男の顔が動き、メガネにディスプレイが一瞬だけ映り込む。当時誰ひとりとして気付くものはいなかったが、画像解析ソフトを通すと「人は結局人が好き。」という鏡文字が読める。
マックの窓際の席でスマホを弄っていた美穂は、滑らしていた指をふと止めた。
画面に見知らぬ表示が浮かんでいる。怪訝そうにそれをタップすると、やはり知らないアプリが起動された。
美穂は苦笑して、向かい席の友人の理絵にスマホを見せた。
「なんだろ、これ?」
画面には、飾り気のない字で『みらてる』と書かれており、その下には酷く事務的な調子で説明が続いている。
「『みらてる』……未来の自分と話してみよう……?」
読み上げた理絵は、ぷっと吹き出し、ゲラゲラと大声で笑った。
説明によれば、必要事項を入力してダイヤルすれば、未来の自分に電話が繋がるのだという。子供欺しにしてもあまりに荒唐無稽な話である。
「アホらし。ウイルスとか?」
渋い顔で呟く美穂の肩を、理絵は愉快げに叩き、
「まあまあ、面白そうじゃん。私にやらせてみてよ」
返事を聞く前に、理絵は美穂のスマホに指を走らせていた。アッという間に入力を終えると、ワクワクした様子でスマホを耳に当てる。
馬鹿にしていた美穂もつい固唾を飲んで見守った。
だが、いくら待っても、誰にも電話は繋がらなかった。解っていた結果だが、理絵は不満そうに唇を尖らし、
「やっぱ駄目か。つまんないの」
そう言ってぞんざいにスマホを返した。美穂は暫しの間、無言でそれを見つめていたが、ついに好奇心に負けてしまった。
理絵と同じ要領で操作し、相手が――未来の自分が出るのを待つ。
コール音が何度も何度も繰り返される。
そして、十回目のコール音の後、ついに誰かに繋がった。
予想だにしない展開に、美穂は声を失った。様子を眺めていた理絵の口から、ポロリとストローが落ちる。
『……て……そ……ら』
電話の相手は、途切れ途切れに何かを言っていた。しかし、喧しい店内ではよく聞こえず、じれったくなった美穂は店の外へと出た。
すると、ようやくはっきりと声が聞こえた。
『そこから、逃げて』
次の瞬間、突然の凄まじい衝撃と轟音が彼女を襲い、スマホが宙を舞った。
アッという間の出来事だった。
運転を誤った大型トラックが、美穂がいた席に突っ込んだのだ。つまり、理絵がいるはずの場所に。その結果は想像するまでもない。
その場にへたり込んだ美穂は、呆然としながら、ひび割れて動かなくなったスマホを見た。
麻痺しかけた頭で、美穂は、「ああ」と思った。
だから、理絵の電話には誰も出なかったのだ、と。
わたしを生んでくれた人たちは、わたしを閉じ込めるときにこう言った。
「隠れていなさい。動いては駄目。音を立てては駄目。声を出しても駄目。ずっと蹲っていなさい。寝転がっていなさい。目を閉じていなさい。あなたはとても貴重で大切な子ども。見つかっては駄目。誰かの目に触れては駄目。ここにいることに気づかれては駄目。空気に同化して、気配を消し続けていなさい」
それで、わたしはそうした。その人たちがわたしを閉じ込めてくれた箱のなかで、隠れていた。動かずにいた。音を立てずにいた。声を出さずにいた。蹲って、寝転がって、目を閉じて、見つからないように、誰の目にも触れないように、ここにいることに気づかれないように、気配を消し続けた。
用意してもらった箱は大きかった。動こうと思いさえすれば、そのなかを自由に動くことができた。体操をすることもできたし、走り回ることさえできただろう。
けれども、わたしはそうしなかった。ずっと床に寝そべって、目を閉じていた。最初は自分が呼吸する音が気になったが、やがてそれをコントロールする術を覚え、空気に同化した。
指先が解けていることに気づいたのは、もうすっかり箱の内部を自分のものとした頃合だった。自分と箱との境界線が曖昧になり、輪郭がぼやけてしまっていた。指先の異変に気づいたあとは、急激に身体が解けてしまった。わたしの容れ物はいつの間にか、肉ではなく箱になっていた。
わたしは箱なので動かない。わたしは箱なので音を立てない。わたしは箱なので声を出さない。わたしは箱なので、蹲っている、寝転がっている、目を閉じている。
やがて、端のほうが溶け始めていることに気づいた。雨が降ったのか、誰かが水でもこぼしたのか、液状のものをかぶってしまい、箱の形状を保持することができなくなっていた。
このままではわたしを保持することができなくなる。意味なく流れていってしまう。
それでは駄目だ。わたしはなんとでもして、わたしを維持しなければならない。
わたしは自力でそこから這い出した。すでに維持できるような形状はなく、あちらこちらが綻び溶解してしまっていたが、わたしは全力でわたしを守ってくれていた箱から離れ、大気へと拡散した。
大丈夫。わたしはここにいます。あなた方が全力で守ってくれた、とても貴重で大切な子ども。
そうして、わたしは春を呼ぶ。柔らかな風となって、芽吹きの時を呼ぶ。
私はその書展にふらりと入った。
山奥の温泉街で待ち合わせをしていたが、早く来すぎて時間が余り、そこらを歩き回っていたら小さな美術館を見つけたのだ。
名前だけはかろうじて知っている書家の個展が開かれている。昼食代のちょうど三倍の入場料を払うと、さらに小さな別棟に案内された。大広間の四方の壁に二十点くらいの作品が掛けられており、私以外は誰もいなかった。
楷書と行書の区別もできない私には、展示された書の大半が読めない。だから抽象画を見るように。あるいは高等数学の式を見るように。一点一点首をかしげつつもわずかながら理解できているような顔をして眺め歩いていた。
だが、最後に掛けられたひときわ大きな書の前で足が止まった。かろうじて、月という字だけは読めたが、それ以外はそもそも何文字あるのかさえわからない。
しかし目を離せないなにかがあった。まるで闇夜に突然現れた本物の月のように、人の視線を捉える力があった。
書の前に置かれていた椅子に座り、飽きずに何分何十分と見つめ続ける。ふと気が付くと、首から学芸員の身分証を下げた男が近くに立っていた。
「これは晩年の作です。あまり評価はされませんでしたが、彼自身は気に入っていたようです」
なにか感想か質問を返さなくてはと迷った挙句に、どうでもいい言葉が口をついた。
「これほどの作品を、筆をささっと走らせるだけで書いてしまうのはすごいですね」
その言葉に、学芸員はちょっと待てという身振りをして奥へと引っ込んでいった。そしてすぐに大判の本を持って戻ってくる。この書家の作品集のようだ。
学芸員はある頁を開いて見せてくれた。そこには見開きの写真があった。目の前にある書とそっくりだけどどこか違う書が、何百枚と書かれては和室に散らかされている写真だった。
「彼は一つの書を仕上げる前に何度も試し書きをしています。字配りや筆の運びを少しづつ変えて、どんな小品でも欠かさず。この書は特に多かったようですが」
私は本を受け取り、その写真と目の前の作品を何度も見比べた。
この試し書きがあってこそ、この作品がある。しかし。
学芸員がいつのまにか姿を消したのに気づくと、私はとても我慢できず本を閉じ、書に向かってひざまずいて祈った。
私を書いている方よ。お願いします。私は試し書きではありませんように。
意味があるのはわかります。でも試し書きだと言われるのは本当に怖いのです。