第214期 #3
やせた動物に道をたずねると、棒のように細長い頭で方角を指して、あっちだと言った。
しかし、あっちは先ほど見てきたから多分違うし、やせた動物は道を知らないのだろうと私は思った。
このあたりの風景はすべて赤く燃えていて、会う人はみな黒焦げになって転がっている。
だから、私はそいつに話しかけるしかなかったのだ。
「ところで君はここで何をしているんだ」とたずねると、やせた動物は煙草を吹かしながら、今俺は煙草を吸っているところだと言った。
「いや、そうではなくて君はどこからきて、なぜここにいて、これからどうするのかということをたずねているのだ」と私が言うと、やせた動物は、アンタこそここで何をしているんだと問い返してきた。
それにしても、目の前には死体がゴロゴロと転がっているのに、私は妙に冷静な気持ちでそれを眺めていた。なんとなく、こんな地獄のようなことになるのは分かっていたから、ああやっぱりなという諦めの気持ちかもしれない。
「私の行きたかった場所もきっと燃えてしまっただろうから、君に聞くまでもなかったな」と私は、やせた動物のほうを見ないで言った。「その場所には恋人が待っていてね、一週間ぶりに会うことにしていたのさ」
やせた動物は煙草の箱を差し出して、アンタも吸うかと私に言った。
もう何年も煙草を吸うのをやめていたのだが、久しぶりに吸ったらどんな味がするかなと思い、箱から一本抜き出して口に咥えた。
やせた動物がライターで火をつけてくれたので、フィルターからゆっくりと煙を肺に吸い込むと、昔煙草を吸っていた頃の感覚がじわじわと蘇ってきた。別にその頃から何かが変わったわけではないが、昔の感覚を思い出すと脳がひりひりするのを感じる。
「本当はね、恋人なんていなかったんだよ」と私は、赤く燃える風景を見ながら言った。「話が混乱して君も面食らっているだろうけど、今はそんな気がするんだよ。久しぶりに煙草を吸ったせいかな」
もう一度たずねるが、アンタはここで何をしているんだ、とやせた動物は言った。
「もう少しこの風景を眺めていたいだけさ。酒を一杯飲んだら眠るよ。現実は酷すぎるからね」
そう私が言うと、やせた動物はますます細い形になって一本の槍に変化した。
そして、これで現実を刺せ、と良く分からないことを言い残したきり、その槍は何も言わなくなった。
「ふーん」と言ったあと、恋人はその槍で私の心臓を刺した。