第214期 #2
「お前、俺のことそんな好きじゃなかったよな。そんくらいわかるわ、態度が全然違うし。」
そう言って振られたのはたった2時間前。今、私は知らない人の家でセックスをしている。行為後、隣でたばこを吸っているのは居酒屋で一緒にお酒を飲んでいた相手。顔が少し好みだったから、そんな単純な理由。どこの誰かなんてどうでもいい。この寂しさを埋めたかった。
「好きだったのかなぁ。」
小さくつぶやいた私の頭を撫で、やさしく抱き寄せてくれた彼だって傷心の女がヤりやすくて誘っただけ。そして一回行為に及んで変な情をもっているだけで本気で心配してくれているわけじゃない。けど、そんな偽りのやさしさで私はあたしを成り立たせてきたし、今日もそれにすがっている。彼を好きだったなんて思う資格、私には無いことくらい理解してる、けど人間の性ってやつなのかな、そこまで好きじゃないのに離れそうだと惜しくなるし、悲しくなる。自分だって同じようなこと、もっとひどいことやっているのにね。笑っちゃう、ほんと私って。2人の関係に名前なんてなかった。自分から突き放して相手が離れそうなら引き寄せようとする。その頃には相手の気持ちはもう私のところには無い。その繰り返し。次も同じなんだろうな。もう何年も本当の意味で人に執着してない。多分これは愛情の欠乏による寂しさを埋める行為で、相手は誰だっていいんだ。だからこそ私は隣にいる彼の名前も知らない。上辺でも私を好いていて、愛を囁いてくれ、セックスをする。正直誰だってよかったし、今もそう思ってる。ただ、自分のいる意味を肯定してくれたらいい。執着できる人、どこかで出会えたらいいな。色々と考えているうちに眠たくなって、彼に抱きしめられながら目を閉じた。目が覚めると隣に彼はいなくて机のメモにこう書かれていた。
“カギはポストに入れておいてください。朝食にサンドウィッチ作ったのでよかったら”
メモの上にカギとサンドウィッチがあった。私は近くにあったペンで“ありがとうございます”と書き、サンドウィッチを被せてあったラップでくるんで家を出た。鍵をポストに入れ、空を見上げると曇り空で今にも雨が降りそうだった。先日梅雨入りが発表されたことを思い出しながら最寄りの駅に向かった。