第213期 #5
「クリス〜!」
「どうした?」
「これ、忘れ物」
「ありがとう。じゃあ行ってくるよ」
「頑張って!」
彼女が渡したのは彼の父親のメメント(形見)だ
この村では毎年神殿にて、
信者が神に捧げる儀式が行われる
彼もその一人だ
「いい嫁もらったなー」
彼ーークリスは元々死刑囚だった
その時いた国の隣国と戦争が起き、
敵国に捕らえられたのだ
だが、奇跡的に脱走ができた
そして数千km離れた、
現実の村ニルヴァーナ村へ来たのだ
そこで働いていた時彼女、ノヴァに一目惚れし
駆け落ちしたのだ
「今年も神に捧げましょう」
「僕はこれを持ってきました」
「私はこれを」
みなが口々に声をあげるなか、
クリスも声を出した
「僕は父親のメメントを持ってきました」
すると教祖の耳にその声が止まった
「クリスくんは、メメントを持ってきたんですか?」
「はい」
「今年はそれにしましょう」
肩身はななさず持ってメメント
そしてこれは神が創った神聖なものだった
そしてクリスは決めた
元々は神の物だと
これは神に返さなければいけないと
「わかりました」
「では、そのメメントをこちらに渡してください」
教祖はクリスの手からメメントを取ると、
日の光が射し込む窓ガラスへとメメントを
挙げた
「神よ! これで我らの豊かなり! 差し上げもうす!」
そう
これは元々この村の平和と豊かを願う儀式なのだ
教祖が言い終わった後突然日の光が強くなった
そしてメメントが瞬く間に熱くなり、
燃え尽きた
「クリスさん。貴方は神に認められました。
時には大事な物は誰かに差し上げなければいけない。
それが定めなのです。なのでその時まで、それを
大事にしなければならない。それがいずれ、
真の幸福へと繋がります」
そう言われたクリスは泣いた
「ただいま」
「聞いてクリス!私のお腹に、赤ちゃんができたの!」
「本当か!やったー!」
彼は喜んだ
本当に神は幸福をくれた
なぜ幸福が舞い降りたかはわからないが、
クリスとノヴァとその子供は一生涯幸せに暮らした
「これで終わりよ」
窓の外には桜が咲いていた
「先生が伝えたいことはわかった?
先生はね大事な物を大切にして、
いずれは誰かに託さなければいけないってことを
伝えたかったのよ」
教室にいる皆が頷いた
そして彼女の胸ポケットの中には
形見が入っていた
そう彼女の祖父ーークリスのメメントが
外は桜で咲き乱れている
メメント 完