第213期 #14
そこは真白な部屋の中で(おそらく)、わたしはその中央(おそらく)にぽつんと座っている。その大きさも形状もわからない。ただ、ここは部屋の内部で(おそらく)、外部と区切られた空間だということはわかる。だって誰の姿も見えないし、音すら何も聞こえてはこない。ただ、わたしが身動きするささやかな音しか、わたしの耳には届いてこない。
目の前の机の上には四角い箱らしきものが置いてあるけれども、うんともすんとも言わない。とりあえず叫んでみるけれども、それに対する反応は何ひとつ返ってはこない。ぐるりと見回してみるけれども、扉らしきものはどこにも見えない。とりあえず立ち上がって歩いてみるけれども、どこまで行ってもいつまで経ってもその真白な部屋の壁らしきものにまで辿り着くことさえできない。不安になって後ろを振り返ると、あの四角い箱の姿がようやく認識できるぎりぎりの位置にいることに気づく。あらためて大声を上げてみるけれども、やはり何の反応も返ってはこない。わたしは大急ぎで元来た道(おそらく)を四角い箱のところまで引き返す。
どうやらわたしはここにひとり置いておかれてしまっているらしい。あるいは監視されているのかもしれないとも思うが、このだだっ広い(おそらく)空間のなかでほんの小さな存在でしかない(おそらく)わたしをどうやったら監視できるのか、わたしにはわからない。体温感知? 発生音感知? 気づかぬうちに、わたしに何かセンサーが埋め込まれた? この部屋自体が中にいるあらゆるもののすべてを感知できるものすごい装置? あるいは、ものすごく巨大な生物に呑み込まれてしまった?
もしくは、本当にただ取り残されたのかもしれない。そして、もう戻ることはできない。もうどうしたって、誰とも何ともつながることはできない。
わたしは床(おそらく)に座り込み、目の前の四角い箱に手を伸ばす。他にできることは何もない。もうこの箱しか、自分に残されたものは何ひとつないのだ。
箱を撫でて、声をかけてみる。
おはよう。
途端に真白な部屋に明るい色が差した。そして、天上から声が降ってきた。
おはようございます。目が覚めましたか?
それは聞いたことのない声だったけれども、わたしは返事をした。泣きながら。繰り返し繰り返し。おはよう、おはよう、おはよう。
おそらく、もう少しのあいだ、このままここで生きていくことができる。おそらく。