第212期 #7
オカルト系の記事を書く仕事をしているが、そういうものを信じたことはない。心霊現象があれば面白いだろうが、ないものはない。
そういう醒めた目で怪奇記事などを書いていたら、編集長が面白い提案をしてきた。
「呪われた屋敷に住んでみないか?」
なんでもそこに住んだ人がすべて謎の失踪を遂げるという。しかもその土地にはむかし首塚があって……という話だ。
「お前は霊とかまったく気にしないだろ。なにか心霊現象が起きたら記事にしてくれ」
そういうわけで住み始めた。だがもちろんなにも起こらない。
過去の住人すべてが失踪したというが、調べてみれば入居したのはたった三人。しかも全員まともな職業についていない。安い家賃につられて生活が不安定な奴が入居し、借金がかさんで蒸発。まともな退去ではないので悪評で家賃が下がり、もっと生活が怪しい奴が来る。その繰り返しのようだ。
首塚もあったらしいが、そもそも中世まで遡れば全国いたるところで戦乱があったので、古戦場や首塚なんてよく探せばごろごろある。ただの偶然だろう。
そんな醒めた話を書いても面白みもなにもないので、首塚の記録を見つけたことや今までの失踪者の来歴などをちょっと不気味な雰囲気をまとわせた記事に仕上げて編集長に送ってみた。すると採用されて、なかなか好評になったらしい。
だがちょうどその直後、面倒なことが起こり始めた。
SNSで俺に向かって「いい加減なことを書くなクソ野郎」だの「幽霊ネタで小銭稼ぎをするクズ」などの誹謗中傷がちらほら寄せられるようになったのだ。
警察や弁護士に相談するほど酷いレベルではない。だがなぜかやけに癪に障り、腹立たしい。仕事への集中力もなくなってくる。
スランプのようになってしまった俺に、この物件を紹介した編集長が心配して電話をかけてきた。俺は苛立ちを込めながらこれまでの経緯をすべて話した。
一通り聞いたあいつは、ぽつりとこうつぶやいた
「それはお前、祟られてるんじゃないか」
それを聞いた俺はカッとなった。馬鹿なことを言うな。非科学的な現象なんてなにも起きていないぞ。祟りというならラップ音がするなり、不気味な人影がでるなり、原因不明の病気になるなり、そういうことが起こらないと困る。これじゃ記事にもできやしない。
そう興奮した俺に向かって、あいつは妙に醒めた声で言い返してきた。
「だからだよ。お前に対してはそういう祟りなんだよ」