第211期 #7
ベランダに机を置いた。ここは五階だから机に座ると柵の向こうに綺麗な青空が見える。ここから見える住宅たちはみな平等に太陽に照らされている。
あなたは5階のベランダに机を置いたことがないだろうから春の日差しを浴び、柔らかくも涼しい風に吹かれながら文章を書く経験というものをしたことが無いだろう。狭い部屋の中でラップトップを広げるのとは全く異なる行為だ。解き放たれて、自由で、どこか寂しく、少し怖い。
思えば僕は自分を何かにつなぎ止めておくように文を書いてきた。部屋で作られる文は僕を過去へと連れてゆく。ベランダで書くとき今が濃くなり私は明日と繋がることが出来る。
トンボ鉛筆を風が撫でる。ルーズリーフの端が風邪で揺れる。黒鉛がなぞった文字の川を日の光たちが泳ぐ。ここには雲を泳ぐ魚の物語が住む。
落胆せずに聞いて欲しい。僕は今布団で寝ながらこの文章をスマホ書いている。しかし正しい呼吸でベランダの風を感じ、そこに住む魚たちと話した。あなたはどこでペンを持つのかしら。