第211期 #6
なんとなくひとりでいることが多い。やはり異国の者だからなのか、避けられているわけではないが、どうも輪の中に入っていくのに抵抗を感じる。
そんな時は、無意識に片方だけのピアスに手が伸びる。
いつも一緒だ。
そう言ってくれた姫様の声が、耳元で聞こえる気がする。
この国は徹底して他の国との交流を行っていない。完全に交流を断っているということはないのだろうが、特定の人以外、他国からの入国はかなり厳しく管理されている。通常は、他国からの入国者は即刻処罰される。他国からの商人なども見かけたことはない。
国から出ていくことも許されていない。貧富の差が激しいせいか、脱国者はいるようで、その場合の処罰は家族に下される。
そんな封鎖している国に入れたのは、当時使えていた姫様が迷子になったせいだ。
もう10年くらい前になる。この国に姫様がいると分かった陛下は、引き渡しを要求したのだが、姫様を引き渡す条件として、生贄を差し出せという書簡が届いた。
当初の生贄は私ではなかったのだが、この国の殿下が私を引き留めたことで、私がここに残ることになった。
姫様がこの国を出る前夜、私の手を握って何度も何度も謝られたのを、今でも覚えている。私の手が砕けるのではないかと思うほど力強く握られて、ずっと泣いていらした。
この国に残したことで、私の身が危ないのではないかとずっとそればかり心配されていた。
だから、何かあったときにと姫様は私に自分の耳のピアスを片方だけ、私につけてくださった。
いつも一緒だ、と。ずっと守っているから、と。
あまりに遠く離れた地で、姫様のお力がここまで届くとは思えないのに、それでも最後にこのピアスに口づけをして力を込めて行かれた。
それだけ大切にされていたのだと、涙が溢れた。
今この国で、私は殿下に使えている。
異国の者と蔑まれることもなく、命を奪われることもなく、ここでこうやって生きていれるのは、まぎれもなく殿下のおかげだ。
私はいつも主に恵まれている。
それでも寂しくなる時はあるのだ。
今でも姫様の耳に片方だけのダイヤのピアスが残っているのかはわからない。
でも、姫様と私とを、祖国と私とを繋ぐものはこのピアスしかない。
名前を呼ばれた気がして振り返ると、遠くに殿下が不機嫌そうに立っていた。
きっと何度も呼ばれたのに違いない。
私のせいなのだろう。なんとなく性格が姫様に似てきているような気がする。
そう思と笑みがこぼれた。