第209期 #3
旅の女が一人、ある村で酒場に入り夕食を取った。
その折、村のならず者に絡まれ、意図せず店の飾り壺を落としてしまい、店主に弁償を求められた。
大した壺でもないのに法外な値段だった。嫌がらせである。
女は、ならず者のせいだと主張し支払いを拒否したが店主は譲らない。
女は怒って、店にあった飾り壺をもう一つ割り、二つぶんの金を払って店を出た。
そこに居合わせた村の女がいて、二つの壺のかけらを集め、継ぎ合わせて直した。
素人の手による下手な継ぎだったが、再び壊れることはなかった。
壺を直した女は嫌なことがあると二つの壺を見て心を慰めた。
壺を直した女が死んだ後、村を訪れたある男が二つの壺を気に入って購入した。
この男は、王家に出入りする商人だった。
新しく即位する新王にふさわしい贈物を探して国中を旅していた。
二つの壺を抱えて商人は城を訪れた。
商人は王に壺の物語を話し、最後にこう言った。
恐れながら、新王の国は二つの危機に見舞われております。
一つはならず者が引き起こした災厄であり、今一つは先王自ら招いた災厄です。
しかし、新王ならば、このふたつの壺のように、うまく継ぎ直すことができましょう。
この壺をお求めになり、見えるところに飾って大切になさりませ。
その行為があなたを正し、あなたの周りの者を正すのです。
こうして、壷は大金で買われ、新王は国を立て直した。
王が死んだあとも、何人かの王がこの壺を飾った。
国が滅んだ今も、二つの壺は人々の手を渡り歩いている。