第208期 #4

カーピス将軍

カーピス将軍の頭がおかしいのは、今に始まった事では無いのだ。

皆さんご存知の通り一日は24時間だ。寝る時間を考えたら18時間くらいだろうか。

だけどカーピス将軍ときたら寝ない。まあ寝ないのだ。
3時に寝て、3時15分には起きている。それも立ったまま寝る。本人曰く時間がもったいないらしい。

クラクラした頭のまま兵卒たちに指示をするものだからまぁその内容が支離滅裂だ。
給料係の事務員を呼び出して、敵が築いたバリケードの近くまで斥候に行けだの、一個大隊の司令官を呼び出して庭の草むしりをしろとか言っている。
それも、少しでも楯突いたり刃向かったりすると、これまたクラクラした頭のまま、そいつの足下に向かって機銃掃射で発破をかける。

「うす馬鹿野郎!次にそんな口を聞いたら、貴様の足から蜂蜜を絞り出してやるからな。」

そんなこんなで、軍の任務がまともに回る訳がなく、無駄に死人は出るわ、いざという時に司令官はいないわで大変なのだ。
けれどもカーピス将軍は、縁故やゴマスリでなく、間違いなく叩き上げの軍人である。
というのもこの人、本番に異様に強いのだ。
普段は支離滅裂な行動ばかりしているのに、いざ敵が攻めてきたとなると、落ち着き払って、まずシャワーを浴び、自室の掃除と衣類の洗濯をして、戦闘が始まるギリギリまで眠る。
そして、部下に起こされた途端に鬼神の如き名司令官になるのである。

だけど、実戦なんてそうそう起こらないから、いわばまぁ、飼い殺されているのである。


周辺国の人間からは、敵ながら敬意を払われている。
威風堂々とした気丈な軍人であり、兵卒が規範にするべき司令官である、と思われている。

誰も、この平素のボケ老人を知らないのだ。
一度、癇癪を起こさせない為に起きる度に「現在戦闘中です」と嘘を付いたことがあった。
瞬間、見かけと態度は気丈な軍人に立ち直るのだが、指示出しはやはりまともではない。

この将軍にとっての寝不足と癇癪が能力を発揮する為に必要不可欠なものらしかった。

だから、ここに配属された兵卒達は、このボケ、カーピスを疎ましく思いながらも、あぁ、俺にも駄目なところがあるんだから、きっとカーピス様みたいに反動で取り柄があるんだろう 。何か得体の知れない能力にいつか目覚めるのだろうと、思いを馳せて日々を過ごしている。

今日も将軍の怒鳴り声が聞こえる。
「誰だ!俺の部屋の電気を勝手に消したのは!」



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