第206期 #5
「みっちゃん達のケンカってもしかして……」
洗い物を終えたいっちゃんが、電話を切ったオレの隣に座る。
「いや、違うよ。」
心配そうな顔をするいっちゃんに言う。
あのふたりがもめているときの原因は大抵泰雅の言葉に問題がある。
可愛さ余って憎さ百倍なのか、気持ちが振り切ったときの言葉が猟奇的なのだ。
普段は、その猟奇的な言葉も充希が意をくんで過ぎていくんだけど、充希も感情的になっていると何故か言葉通りに受け取ってもめる。
ただ、充希の気持ちが落ち着けば自然と消滅するのだ。ずっとそうだ。
でも、今回はいつもとどうも様子が違う。
きっかけはもしかしたらオレ達かもしれないけど、もともとあった問題が露見しただけなんじゃないかと思っている。
「トラちゃんてさ。みっちゃんのこと、食べたいくらい大好きなのに、なんで怒らせるようなこと言うかな?」
テレビのチャンネルを変えながら、いっちゃんが言った。
ん?
「泰雅、充希のこと食べたいって言ってたの?」
「ん? 結構前だけどね。みっちゃんが「充希を取り込んで一緒に生きていくって言われちゃった」って惚気られた」
何事かと思ったよね、っていっちゃんが苦笑いした。
「でも、それってトラちゃんはみっちゃんとそれくらい一緒にいたいってことなんだよね」
羨ましいと呟いたいっちゃんに「ヒトの細胞って半年で入れ替わっちゃうらしいから、半年は一緒にいようってことでしょ?」って言ったら、「バカ」って返ってきた。
「じゃあさ……」と言って、俺はいっちゃんを真剣な眼差しで見た。
「いっちゃんを取り込んで、オレの中の細胞が全部いっちゃんに置き換わったその瞬間オレも死ぬから、あの世で添い遂げよ?」
ふたりで見つめあったまま無言の時間が流れた。
「それ、怖っ!!」
いっちゃんがオレから離れた。
「こんなん言われて喜ぶの充希ぐらいだな」オレは天井を見た。
「トラちゃん限定だけどね」いっちゃんが苦笑いする。
「割れ鍋に綴じ蓋ってあいつ等のためにある言葉なんじゃねーかって思うのに、なんとなくかみ合わないことあるんだよな。鍋が割れてんのが悪いのか?」
「蓋も壊れているけどね」っていっちゃんは笑う。
あぁ、だからちょっと噛み合わないことあるのか。
「零くんはそんなお鍋さんで煮込まれる料理だね」
いっちゃんが言った。
「は?」オレの眉間にシワが寄る。
熱くて出たいのに出られない姿を想像して、焦がされる前になんとか鍋から出たいって思った。