第205期 #3
毎朝毎朝、毎朝蜂蜜トースト。
私の朝は蜂蜜トーストで始まる。
もっと体に良いもの食べた方がいいよとかまぁ言われるけどカンケー無い。蜂蜜の健康効果知らんのか?
いやまあ、俺も知らんけど。
歯を磨いて、顔を洗って、蜂蜜トースト。
用を足して、軽く散歩して、蜂蜜トースト。
朝の支度して、出勤して、蜂蜜トースト。
会社に着く頃にはもう一枚蜂蜜トースト。
蜂蜜トースト何枚食べるのだろう。
たまにサラダを食べたり、果物のジュースを飲んだりするけど、基本はやっぱり蜂蜜トースト。
蜂蜜だけでも、トーストだけでもいけない。両方無くちゃあ、始まらない。
思い起こせば、あれは最初の七五三に遡る。
親戚のおばちゃんが作ってくれた蜂蜜トースト。
あっという間に平らげた蜂蜜トースト。
美味しかったんだから。
でももうあのおばちゃんは亡くなった。今や永遠に失われた蜂蜜トースト。望郷の蜂蜜トースト。
サクサク、サクサク、じゅわ、サクサク、サクサク、じゅわ。
牛乳があれば天国だ。
蜂蜜トーストに埋もれたい。
蜂蜜が無限に湧き出る壺にトーストを浸して、無限に永久に食べていたい。
食べたら無くなる。食べるという究極の自己満足。
食べてる時の僕の顔は恍惚で
きっととてもお恥ずかしい顔をしてるんだと思うけど、
そんなもの気にしてたまるか。
社会性を失っても、健康を害しても、蜂蜜トースト。
出張先でも、家族旅行でも、同窓会でも蜂蜜トースト。
寝ても覚めても蜂蜜トースト。
はじめての彼女とデートした時も、やっぱり。
僕と彼女と蜂蜜トースト。
かかりつけの医者から、血糖値がやばいですよ、このままじゃ糖尿になりますから、野菜とタンパク質を取りなさいと言われた。
それでもやっぱり、待合室で蜂蜜トースト。看護婦に怒られても、ここが飲食禁止でも、老婆の足にこぼしながら蜂蜜トースト。
トースト、蜂蜜トースト、蜂蜜、トースト蜂蜜。
谷山浩子に作曲してもらおうか?
上司にリストラを宣告されて、公園で俯きながら食べるのは、蜂蜜トースト。
ワンカップなんか飲まんよ。下戸だもの。
海外から蜂蜜を輸入して、全粒粉のパンとセットで販売する
商売に成功して、億万長者になった。
やっぱり案の定、社長室で蜂蜜トースト。
いい尻してるねと秘書に言ったのがバレて、公の場で記者会見してる時もやっぱり蜂蜜トースト。
生きている限りはやっぱり蜂蜜トースト。
「森崎さん、お薬の時間ですよー」
社長だろうが。