第204期 #4
貧乏性の私は、ルーレット付きの自販機で買う時には並んだ数字が止まるまできちんと見届けることにしている。
当たったらいいのにな。て、淡い期待を込めて数秒間毎度待つのだが、当たることは滅多とない。
それでも、私はこの刹那的な賭けを楽しんでいる節もある。
高々、100円や120円の賭け。
しかも損をすることなんてなく、他の自販機となんら変わらない品物が必ず出てくる。だから私の毎日の賭けは、衛生的なギャンブルの一種のような気さえしてくる。
――チャリン…。
今日も私は自販機に向き合う。
お目当は、いつものミルクティー。
黒いボタンを押し込めば、数字のルーレットが回り出す。
――ピピピピピッピッ ピッ ピー……。
あ……。
結局、最後の最後の一桁が揃わない。
仕方ないか、と思いつつも残念な気持ちが通り過ぎる。
前、当たったのにな。
ドキドキしたあの感覚が、自販機のボタンを押す度に頭を掠める。
同じ高揚感を味わいたくて、何度でも自販機のルーレットに期待してしまうような気もする。
――そう確か。前、当たったあの時は。
お土産を渡しに、いそいそと向かってた矢先。自販機で飲み物を買った時だった。
ごみごみした路地の自販機で購入ボタンを押すと、ルーレットが回り始め、揃い、然程主張することなく再びボタンが『点灯』したのだ。
当たったどうかも微妙だったものの、あの人の好みを慌てて考えながら、もう一度ボタンを押してみるとジュースがガコンと確かに落ちてきた。
それだけで妙に嬉しくなって、自販機に恋の行方を祝福されているようか気さえして、気持ちが弾んだ。
ドギマギしながら、冷えたジュースとお土産を渡すと、ラッキーですねとはにかみつつ笑ってくれた。
そんな些細な高揚感が、未だに印象に残っている。
ミルクティーのボトルを自販機下から取り出しながら、考える。
あの人のことを、よくよく思い出そうとすると何だか目が眩んだ。
――ああ、冷たいな。
ミルクティーのように、甘ったるい恋などではなかったな。
夏の蒸し暑さと冷えた飲み物くらいの、温度差を感じる片思いだったかな。
言葉の端々から、私は対象外なんだと察することは容易だった。だから、一方的に諦めたんだ。
まぁ、今更なんて事ないけど。
自販機に向き合う度、ちょっと思い出すだけでどうだっていいことだよ。
……どうでもいいんだけど、なんか胸がひりひりしてくるな。