第202期 #4
瑛美は愁眉のまま言った。
「あなた大学出てるし。頭いいから」
「バカな。ぼくより頭いい奴いくらでもいるよ」
「ええ、私バカなの」
「君は誠実で善良で優しいから好きだ。ぼくも君からそう思われたい」
「新之助君は優しいよ」
三つの選択肢のうちそれを選んだ理由を、今夜私は悩み続けるだろう。
半年前、私の同僚の吉田が彼女と付き合っていた。吉田を知るにつれ彼が反社会性パーソナリティ障害である疑いが強まるばかりだった。彼女を心配して見守るうち、顔や腕に青痣が増えていった。私は意を決して吉田と話し合ったが、彼は聞く耳を持たなかった。彼女の目の前で彼にとても強い言葉を遣ってしまった。私はただ正義を通したいだけだと言いたかった。彼女を困らせるつもりなどなかった。ただ彼女を守りたかった。しかし彼女は三角関係だと感じたのだろうか。
その夜、吉田はバラバラに切断され、殺された。しかも切断された手足が持ち去られていた。犯人はいまだに不明だ。
私は先輩のアパートを訪れた。
「先輩、助けてください」
「彼女が好きなのか」
「はい」
「高卒のキャバ嬢にもなれなそうなバカ女をか。君のゲテモノ食いには驚きを通り越して感心するな」
「…………」
「わかった。確かに興味をそそられる事件だ。なぜ手足が持ち去られたのか。調べてみよう」
まもなく名探偵は犯人を特定し明白な証拠とともに警察に通報した。犯人は4人の女だった。吉田は瑛美と並行して彼女たちと付き合っていた。
先輩は瑛美を会社のロビーに呼び出して説明した。私は壁際に隠れて耳をそばだてた。
「彼はサイコパスだった。ありがちなことだが、とても魅力的な男性だった。犯人たちは、彼を憎みつつ、彼の証として体の一部を持ち帰った。新之助君は全く無関係だ。遅かれ早かれ、吉田は報いを受けていただろう。彼が君を支配し服従させようとしたのは、君が若くて美しいからだ。だが君の本当の価値は、誠実で善良だから。その価値がわかる男がきっと見つかるよ。彼を手放すな」
その後デートに誘ったが彼女の愁眉はまだ開かなかった。
「まだ彼を好きなの?」
「いいえ。ただ身近にいた人が死んだことが辛いの」
彼女の美しい魂に触れるたび私の魂も震えるのだった。
「ぼくは半年待った。確かに、悲しみが癒えるのには時間がかかるだろう。ひょっとしたらいつまでもかかるかもしれない。でも、ぼくは今すぐ君にキスしたい」
彼女は受け入れてくれた。