第202期 #2
私は洞窟にいた。
正確に言うと、気がついたらここにいた。
いつから記憶が無いのかすら、覚えていない。
もちろんここがどこか、なぜここに居るかさえ分からない。
明かりも光もないから最初は洞窟であることすらわからなかったのである。
ひんやりとしているが、寒さは感じない。
肩に触れる岩肌の感触で、多分洞窟なんだろうということしか分からないから仕方がない。
少し目がなれてくると、壁の様子がうっすらと見えてきた。岩だと思っていたのは、硬く固められた砂か細かな石のようだった。さらにそれは先に続き登り坂になっている。
その光景は記憶にある。
あの場所であることに気がついたのは、暫くしてからだった。
「ここがどこか知っている」と思った。
正確には、どこかは知らないけれどいつも夢で見るあそこであることは間違いない。でも、そこがどこかは分からない。よく知っているが、知らないどこかなのだった。
つまり夢の中で夢の中の光景を思い出しているという不思議な体験をしているのだ。そう思うと、我ながら頭がこんがらがって意味がわからないデジャブを体験していることすら夢ではないかと思ってしまう。
そのとき音が聞こえて、続いて声が聞こえた。上のほうから人の声がする。
「気がついたようだな」
機械音のような声でゆっくりとした話し方だった。
「<パノプティコン>へようこそ。大人しくしていればなにも心配しなくて良い」とだけ言って消えた。
<パノプティコン>とは確か、18世紀に哲学者ジェレミ・ベンサムによって考案された全展望監視システムのことで、いわゆる監獄で最小の監視者で受刑者を多数監視できる建築のことだ。
監獄に幽閉されている事を知らされたとたん。脱力した。
なんとかして逃げ出す手はないか?何かを繰り返し試してような気がする。だからこの施設のことも、逃げ出せないことも知っているかのように感じるからだ。
ここは黙して様子を見よう。驚きのあまり気絶したような振りをしてみることにした。
「気絶したようですね。今度の被験者はなんとかなると思ったんですがね?」
モニターを背にした男は、皮肉をこめてそう言った。
「なぜそう思うんだ?この被験者は完璧だよ」
そして博士は振り返ってこういった。
「そもそも<パノプティコン>は刑務所と考えているようだが、本来は究極の更生施設で<教育施設>なんだよ。
彼は9度目にして、気絶すると言う選択肢を自ら選んだのだからね。」