第201期 #7
「花は永遠に咲いていられない?そんなの誰が決めたの?」
レイカは凍ったバラに触れながら、微かに笑みを浮かべた。部屋に並ぶ蝶の標本は少し埃を被り始めていた。
「昔、女の子なのに残酷な遊びはやめなさいって言われたことがあるの。あの人はただ知らないだけなんだ」
レイカは相変わらず独り言が激しいなと私は思った。
初夏をこれでもかって詰め込んだひまわり、真っ赤に染まった山のもみじ。美しいものはいつまでも取っておきたくなるのだ。レイカの部屋には様々な色が浮かぶ。季節など関係なく彩られ、そしていつも冬の気配がしていた。
レイカは時に蘇らせることもある。この日は凍った蝶に話しかけていた。
「ねぇ、あなた。もう一度羽ばたいてみない?」
いつもより優しい声で話しかける。当然蝶が返事をする訳はないのだが、まばたきする瞬間に動いていたのではないかというほど水々しい羽をしていた。レイカは羽をそっと撫でて、
「息をすることを忘れていただけ。目覚めなさい」
そう言って、息をふーっと吹きかける。あぁ、なんて綺麗な蝶なんだろう。部屋の隅の私に気づいてくれるかな。そう思っている内にふとレイカと目があった。
「あら、あなたもいたのね」
喋れないのがわかっている癖にと睨んだが、レイカはちっとも怯まない。
「あなたもそろそろ目覚めても良いわ」
随分素っ気ない言い草に私は怯えた。だが、あの鮮やかな蝶が止まった時、確かに温もりを感じたのだ。
「さぁ、目覚めなさい」
レイカは私に向かって息を吹きかけた。体がみるみる人らしくなっていく。
「鏡を見て」
レイカは化粧台に私を連れて行った。鏡を覗くと、
「信じられない!」
自分でも驚くほど綺麗な声だった。レイカは嬉しそうに、
「誰もあなたのこと『モト骸骨』だなんて思わないわよ」
と言って、笑った。