第201期 #6

平穏

 やたらに夢ばかり見るから、嫌になってきた。おぼろげな夢の記憶を、私は少し時間を掛けて手繰り寄せる。

 確か……、最後泣いていたのだ。「何で、別れるの。別れたくなんかないのに」としゃくり上げるようにして声を絞り、引き留めていた。
 なぜか夢では、同居中だったはずの彼としばらく別居しており、そろそろ別れようかと切り出されていた。
 彼の態度は非常に淡白で、言葉にまるで色がないといった感じで。相手に気持ちがないというのはこういうことかと、夢の中ながら察したのだった。
 別れに納得いかず愚図る私に「知紗はセックスがしたかったんだよね。俺はしてもいいよ」と慰めるように言われた所で目が醒めた。

 頭にまとわり付く鬱陶しい感覚をどうにかしたくて、充電中の携帯に手を伸ばす。遮光カーテンで薄暗いままの部屋の中で、別れる。夢。と検索ワードを打った。

 夢とは真逆で、彼と私は仲がいい。昨日も身を寄せ合って、彼の頭の毛を指で掬い上げたりしながら一緒にテレビを見ていた。他所ではべったりしないが、誰が見ても仲睦まじい二人だと思う。
 ただ付き合いが長くなってきて、なんとなくセックスの回数も減ってこの所しようという感じにならない。一緒に暮らしてるとどこもそんなのかもしれないが、本当の所少々寂しさを感じている。

 検索結果の中の1つ、また1つと見比べ確かめていく。そもそも書き手によって解釈が違うし全部を信じる訳でもないが、ひとしきり読めば気が済み安心する。それだけだ。

 色々調べてみた結果、どうやら今回の夢は正夢ではなく逆夢らしかった。逆夢とは、現実は夢の通りにはならないということである。
 診断によると別れの夢は、好きであるからこその別れに対する恐れ。相手に対する寂しさ、不満。などなどであり、夢で泣くほどの強い感情があるのは、それだけ相手に気持ちがあるということらしい。

 実際にこれから別れるわけではない、というお墨付きを一応貰い胸を撫で下ろしていた。

 そう、私は決して別れたい訳ではないのだ。彼をなにより大事に思ってる。
 そうだ、そうだ。と自分の気持ちを改めて確かめ、安堵した。

 これはただの倦怠期と言い聞かせる。平穏と言う名の不安。この夢は、お互い居心地の良さに馴れきって、ぬるま湯で泳いでいる二人への警鐘のような気がした。



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