第201期 #5

恐怖の空間

画面に映る無機質なはずの文字に色が見える。温度を感じる。
無機質と思っていたものが、現実よりもリアルで確かなものとして感じられる。
それがただの錯覚だとしても、自分には現実よりも近いのだ。

確かに始めは無機質だった。ただの白い画面に黒い文字。読めば気持ちはワクワクしたけれど、それ以上は何もなかった。
それが一転したのは、ある些細な出来事だった。
画面を開いた瞬間、ものすごい熱を感じた。
この人達、ものすごく怒ってる。そう文字から出てくる感情を初めて感じた。
それからだと思う。文字に色が見えて、温度を感じるようになったのは。
見える色数は少ない。正直12色もないと思う。「それでも」なのか、「だから」なのかわからないが、そこに映し出される色は鮮明だった。
少ない色数に、温度も感じる。触れてもいないのに、その熱が伝わってくる。
現実世界ではそんなに鮮やかに見えない色が、画面に映る文字だけの世界では温度も感じるせいか色が鮮明に見えた。
今は面白いことに、痛覚や嗅覚が感じることさえある。

その空間でそこそこなじんだ頃、言葉は生きていると思った。
こんなにもいろんな色があって感情があって、そしてそれが画面越しなのに伝わってくる。
生きている、動いている。言霊とはよく言ったものだ。
暖かく優しい言葉が広がっていくときは、優しく包み込まれるような感覚がある。だけれども、冷たい言葉や汚い言葉が悪意を持って使われ広がっていくときは、切り裂かれるような感覚さえある。正直、怖いと思った。恐怖だった。
その空間では何気ない文章の一言が切り取られ、勝手に色が付き、熱を帯びて広がっていく。
一気に燃え上がることもあるし、じわじわと大きくなっていくこともある。
どんな言葉も始めはたいして熱くもないのに、広がっていくうちにどんどんその熱は高くなっていく。

現実を生きていると、感情をむやみに外に出さないせいか、一見するとすごく穏やかだ。
故に、味気ない感じがして、毎日が曖昧な色に見える。人から感じる温度は殆どなく、肌で感じるのは本当に気温だけの毎日。それが平和だと言われれば、そうなのかもしれない。
でも、その平和が成り立っているのは、画面の向こうの世界があるからだとしたら?
あの空間は現実と繋がっていないようでいて、実はものすごく密接に繋がっている。
そう気づいた瞬間、ワクワクしていた空間が、一転して恐怖の空間になった。



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