第20期 #7
ぼくの毎日は、いつもこの階段から始まる。
学校へと続く、300段。
最初のうちはとてもきつくて、上るのが嫌だったけど、近頃はだいぶ慣れて、
むしろこの階段がなければ頭がすっきりせず、一日のはじまりが台無しになってしまうような気さえするようになってきた。
ぼくがいつものように階段を上り始めると、うしろからとなりの家の山田くんが追いついてきた。
「やあ、おはよう」
ぼくが声を掛けると、山田くんも返事をしてくれる。
「うん、おはよう」
ぼくらは階段を上りながら、話をした。
「昨日の夜、救急車の音で目が覚めたんだ」
話をしながらぼくは、上っている階段の段数を数えていた。
1,2,3……。
ぼくがその話題をしたときは、ちょうど100段だった。
「へぇ、そう」
山田くんがそれに答える。
「聞こえなかったの」
「うん、聞こえなかった」
「なんでも、ぼくらと同い年の男の子が突然倒れたらしいよ」
「そうなんだ」
101,102,103……。
階段はちょうど200段のところまできた。
「すぐに病院に運ばれたんだけど、今日の朝、死んじゃったんだって」
「それは可哀想に」
山田くんは、さも他人事のように言った。
201,202,203……。
ついた。300段だ。
「本当に、可哀想だね」
「うん」
ぼくが歩きだすと、山田くんはそこに立ち止まったまま手を振った。
「それじゃ、ぼくはここで」
そうして山田くんは、天国への階段を上り続けていった。