第2期 #8

シャイン

1993年、僕は夏の終わりに恋をした。人の姿がまばらになった海岸で彼女は一人スイカ割りをしていた。僕は彼女の姿を見た瞬間、黒板を爪で引っかいた感覚が全身を貫いた。足はもう彼女にむけて動いてた。
「もっと右、右!」
僕のアドバイスを耳にした彼女は一瞬ビクリとした。僕はかまわず彼女に言った。
「駄目!駄目!行きすぎだよ。ほら!手の音が聞こえるだろう?」
僕は一生懸命に手を叩いた。彼女はゆっくり頷くと手のなるほうに歩き出した。大学で心理学を選考している僕はこの状況を絶好の告白シーンと考えた。かの有名な心理学者「美輪明宏」はこういっている。「私は天草四郎の生まれ変わりなのよ。いい?お釈迦様にはおっぱいもお髭もあるでしょう。これが究極の美なのよ」僕は急いでラブワゴンにいってチケットをもらい彼女に告白した。
「そのスイカが見事に割ることが出来たら、僕と付き合ってもらえないか?」
彼女は僕の告白を竹刀を振り上げたまま顔だけを僕の方にむけて聞いていた。僕はその瞬間3年前に駆け落ちした親父が言っていたことを思い出した。「女性が一番輝く瞬間は男に愛の告白を受けている時だ。」と。目隠しの彼女であったが十分すぎるほど輝いてた。
「あのう。」
彼女がゆっくりと呟いた。初めて聞く彼女の声は潮風に乗り、オフショアの海に優しく響いた。
「私はまだあなたの姿を見ていないけど、もしスイカを割ることができれば、あなたの一番星になりたい」
「マンマミーア」
僕はこの素晴らしい感激を何かに表現しないとバチがあたる気がして、手を狐にして「じゃんけんコン!じゃんけんコン!」と刹那に染み入った海に向かって叫んだ。
「感じる」
彼女はそんな僕をよそにスイカの前に見事にたどり着いていた。彼女は震えていた。僕も震えていた。そしてスイカも震えていた。僕はこのとき初めて気づいたのだった。彼女の竹刀がスイカを打ちつけた。ぐったりしたスイカに僕は呟いた。「親父、輝いていただろう」と。



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