第2期 #2
第七次世界大戦。
世界は相次ぐ戦争ですっかりその姿を変えてしまっており、人口も壊滅的な打撃を受けていた。僕らはもう何世代にも渡って空を見ていなかった。流れる雲や、星や、月や、太陽を。すえた臭いのシェルター暮らしが、僕らの全てだった。
人は飽くことなく次々に死んでいた。死ぬ理由には事欠かない世界だった。誰も死にたいなどとは思っていなかったけれど、それ以上に生きようとも考えていなかった。どんな気持ちも感情もそこには無かった。ただ生かされているという深い虚無があるだけだった。
僕は軍に入隊した。一七歳だった。軍に入れば、女が抱ける。理由と言えばただそれだけだった。そして僕の入った小隊には、トウコという少女が飼われていた。無口で、おどおどしていて、美人なわけでもない。彼女はいつも下を向いていた。そして体中に傷を負っていた。態度が気に食わない、ブスだ、つまらない女だ、と様々な理由で男たちに暴力を振るわれていた。そういう理由には事欠かない少女だった。
ある日、そのトウコが初めて口を利いた。
「殺してよ」
僕はいまいち彼女の言葉の意味が解らなかった。三〇年も生きずに人は死んでいく。僕らが生まれる遥か以前からだ。死にたければ幾らでも方法はある。なぜ僕に頼む?
「殺してよ。すぐ死にたいの、今すぐによ!」
僕はトウコの腕を取って、彼女が「相手」をしている三人の仲間たちの所へと連れて行った。
「誰かこいつを殺してやれよ」
仲間たちは一様にうさん臭げな視線を僕に向けた。この僕にだ。訳の分からないことを言っているのはトウコなのに。
僕は支給されている古びたリボルバーを取り出し、仲間たちに向けた。
三発の弾が三人を殺した。血と硝煙の臭いが立ち込めた。
トウコは蒼ざめた顔で僕を見ていた。
「どういうつもり?」
どういうつもり? 僕は頭の中でその言葉を繰り返した。その答えは、僕の中には無かった。僕は誰かを殺すつもりもないし、死ぬつもりだってない。どんなつもりも僕にはない。
「殺して欲しいんだろ」
「あたしが、よ」
ああ、そうか。僕はようやく間違いに気が付いた。そしてトウコにリボルバーを手渡して言った。
「これで死ねよ」
その時、彼女の目からはぼろぼろと涙が滴った。死や、絶望や、諸々の悪には事欠かないこの世界で、その涙は、なぜかとても美しかった。唯一と言っても良かった。
そして彼女は、迷いもせず引き金を引いた。