第198期 #4

なんども、なんどでも……

「は?」
何言ってんの? って言葉を飲み込んだら、盛大な溜息が出た。
「やっぱりなんか引っかかってて……」
「いやいや……」
意味の分からない回答が返ってきて、また溜息が出た。
こちらは呆れて言う言葉がないし、向こうは言いたいことがまとまらないらしく、スマホを耳にあてたまま無言の時間が過ぎた。
暫くして、「だって……」とつぶやく声がして、「だってじゃねーよ」とすかさず返す。

「アイツの言葉のセレクションがおかしいのは昔からだろ? っていうか、こじらせんのはいつもお前じゃん。なにまともに受け取ってんだよ。お前ら一体何やってんの、もう」
ソファの背もたれに寄りかかり、天井を見上げる。文字通り耳が痛い。耳からスマホを軽く浮かせる。スピーカーにしようかと思ったが、こんなアホみたいな会話、洗い物をしている恋人に聞かせられないと思いなおして、大人しく痛い耳にスマホをあてなおす。

好き過ぎて、言われた言葉に一喜一憂するのだという。なんでもない、文字通りの意味しかない言葉なのに、好き過ぎて、大切過ぎて、言われた言葉が少しずつ胸に溜まって、気が付いたらその言葉を勝手に並べ替えて、別の意味があるんじゃないかと不安になるのだという。
勝手に不安になって、そうじゃないと否定したら、余計に自分の中の不安が大きくなって、大好きなのに疑ってしまうんだって。
大好きな相手を疑って、信じられなくなってきた自分が嫌になって。気が付いたら出口のない不安の中にいるんだそうだ。
「ごめんね、面倒臭くって」って泣きながら笑った恋人の顔を思い出す。

「不安だって言えばいいじゃん」
「そんなこと言って、面倒臭い奴って思われたくない」
「思うわけじゃないじゃん。お前ら何年付き合ってんの? 何年一緒に住んでんだよ」
傍から見てたらお前らは割れ鍋に綴じ蓋だと痛感するのに、当の本人はそう思ってないらしい。
「そんなのわかんないじゃん」
いずれ来るかもしれない終わりに怯えて、言いたいことも言えないなんて。そもそも終わりのない関係なんてないんだよ。持続させる方法を、ふたりで探していくしかないんだって。
「じゃあ、もう暫くそうしてろ」
そう言って一方的に電話を切った。そのうちアイツに当たり散らしたくなるだろう。当たり散らしたらいいじゃないか。
洗い物を終えてこちらに歩いてくる恋人を見る。自分達はそうやってきた。
言いたいことを言い合って、また、そこから始めるんだ。



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