第197期 #7
朝の海岸で、少女の入った透明なカプセルを見つけた。
カプセルを軽く叩くと、少女は眠たそうに目をこすった。
そこで私は何事かを話かけてみる。おはよう、大丈夫なのか、君は誰だ、とか頭に浮んだことを。
あるいは、こういう場合、相手は何者かという質問にはあまり意味がないのかもしれない。
相手がもし宇宙人だったとしても、私には驚くことしかできないし、その事実を受け入れるしかないのだ。
「ここはどこ?」
カプセルの中の少女が最初に話した言葉がそれだった。とても基本的な問いである。
「ここは、私が毎朝散歩している海岸。または、宇宙からみれば銀河系にある地球という星」
「じゃあ、あなたは誰?」
そんなとりとめのない問答を続けているうちに、日が高くなり、お腹も空いてきた。
「君や私が誰かという問題も重要だけど、君はひとまずこのカプセルから出たほうがいいんじゃないかと思う」
私はそう少女に提案した。
少女を置き去りにしたまま食事に戻ることはできないし、このままだと彼女に食事を与えることもできないからだ。
すると少女は、それもそうね、と言ってリモコンのようなものを取り出した。そして(1)と書かれたボタンを押すと、カプセルが急に膨らんで倍近くの大きさになり、私の体もカプセルの中に取り込まれてしまったのだ。
少女も、私と同じようにびっくりしたようだが、すぐに、ごめんねと言って苦笑いをしてみせた。
「自分ことはよく思い出せないけど、このボタンの使い方はなんとなく覚えているみたい」
彼女の話によると、このカプセルは、誰にも壊すことはできないが、周りを取り込みながら大きくなることはできるのだという。
結局のところ、少女と私は、リモコンの(2)と書かれたボタンを押すことで、狭い空間から解放された。そして遅い朝食を二人で食べ、縁側でお茶を飲みながら、ほっと一息つくことができた。
とは言っても、リモコンの(2)は、宇宙全体をカプセルの中に取り込むボタンである。なので実際のところ、私たちはまだカプセルの中にいることになるのだが……。
「二人っきりになりたいときは(1)を押して、息がつまりそうになったら(2)を押せばいいのよ」
少女は、自分が宇宙の中心にでもなったようにそう言った。
ちなみにリモコンの(3)は、全てが嫌になったときに押すボタンなのだそうだ。しかし、そのボタンを押すと何が起こるのかは、彼女も知らない。