第197期 #5
本を閉じる。ようやく読み終わったという気持ちと、読後の高揚感とが入り混じったため息が出た。
ずっと持って歩いていた短編集。新聞広告で見かけて、評判も良さそうなので買ってみた。
読み始めて割と直ぐに躓いた。何が書いてあるのか全く分からなかった。そういう本でも読み進めていくと途中で急に霧が晴れることがあるので、モヤモヤした気持ちのまま読み進めた。
長編であれば途中で霧が晴れたのかもしれないが、相手は短編で、1作目は結局モヤモヤしたまま終わった。
次の話はわかるかもしれない。そう思って読み始めたが、やはり理解できなかった。
どう読めばそこに書かれている意味が分かるのか、まるで見当がつかない。なのになぜ新聞広告には面白いと書かれていたのか。所詮ただの客寄せだったのだろうか。
無理をして読み進めていたのだが、2作目が読み終わらないうちにその本を開くのが苦痛になった。
ただ字面をなぞるだけ。字面のパーツパーツは理解できる。決して出くわしたこともないような言葉が並んでいるわけではない。なのに、そこに綴られている文章は難解だった。
本を開いては3行ほど読み進め、苦痛で本を閉じるという半ば作業的な毎日を暫く送っていたが、とうとう短編集は持って歩いているが開かないという状態になった。
4作目の冒頭5行程読み進めたところだったと思う。
もう開くことがないと思われる短編集をカバンに入れたまま持ち歩く日々が続いた。
カバンを開くと目に入り、うんざりする。なぜ買ってしまったのだろうか?
しおりが挟まっている場所は、表紙からそんなに遠くない場所にある。あれだけ時間をかけて読んだのに、まだそこなのかと思うと気が重くなった。
短編集を開かなくなってどのくらい経ってからだろうか。転機が訪れた。
「うんざり」が染みついたその本はもう二度と開かないと思い、しおりを抜くために手に取りしおりの場所を開いた。なんとなくサッと視線を右上から左下に動かしたら、なんだかワクワクした感じがした。
あぁ、そういうことだったのか。何かがストンと自分の中に落ちた。
そこから先は坂を転げ落ちる勢いで読み進めた。
ずっと視点が違っていたのだ。いや、もしかしたら始めからそうやって読むのだと気が付いていたのに、始めに躓いたことで焦って見失っていたのかもしれない。