第197期 #4

きかんしゃユーモア

家出したユーモアが帰ってこない。
いつの間にかベランダから脱走したらしい。
今頃原付でエロティシズムと二人乗りしているに違いない。

家に残ったロジックとレトリックが、はじめこそ目の上のコブが取れた開放感に浸っていたが、ひとしきり遊びつくすと、途端に閉塞感に苛まれた。
さらに数日が経ち、閉塞感すら忘れかかった頃、開け放たれていたリビングの入り口から、Tシャツの襟元から顔面だけを出した男が、前習えを縦に振り回しながら入ってきた。

「きかんしゃユーモア!」

ロジックとレトリックが目を見合わせた。そこには二つの驚きがあった。
まず一つ。ユーモアが帰ってきたのがあまりに突然のことだった。そしてもう一つ、劇的な帰宅の一方で、全く成長していない彼のギャグに対して、失笑と安堵、どちらの顔をすべきか量りかねた。
2人がユーモアに視線を戻すと、彼は「これから鉄橋に差し掛かるのだ」と汽笛のまねをしてみせた。
彼のTシャツに「AIR FORCE」と書かれていることなど、2人にはつっこむ余地もなかった。



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