# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | 犯罪者の氣持 | 絲 | 995 |
2 | 僕という作品。 | さばかん。 | 955 |
3 | 人生がもしゲームだったら | カシギ | 1000 |
4 | 宝島 | 霧野楢人 | 1000 |
5 | ここは平和 | わがまま娘 | 990 |
6 | あ | qbc | 1000 |
7 | 見習い猫 | euReka | 1000 |
8 | 箱庭の塔 | たなかなつみ | 965 |
9 | 皮膚と粘膜 | 塩むすび | 999 |
0:57 「犯罪者の氣持」、なんて一括りにはしたくない。その人らはたまたま「犯罪者」になつただけで――下品な惡意から、人を突落して來た連中なんて、このサイトにはいくらでもゐるでしよ。ただ「犯罪」になつてゐないだけで。私は――ある時犯罪者と話した事がある。
0:59 「俺には性慾が無いからね、何したつて無駄なんだ」。「ぢやあ、どうして强姦したの?」。「その女がむかついたから。できなかつたら、毆るなり何なりしてた」。それから、「こはくないの」と言はれた。
1:04 私たちはカラオケにゐた。こんな話、人がゐるところぢやできないから。「すごく、近い」。數センチの間しかなかつた。「誘つてゐるの」。私は赤面した。體に震へが走つた。「何でこんなに近いの」。
1:09 「だつて、こはがつてるつて、相手に思はせたくないから」。私は言つた。彼が、じろじろと私の顏を見た。「私は……確かに男が好きだけど、勿論强姦されたいわけぢやないよ」。「ぢやあ、俺が誘つたら」。
1:10 私は、彼とホテルにゐるところを思ひ浮べ、それから好きな人を思ひ浮べた。「しないよ」。「ふうん、他の日は」。「あたしは、普通のセックスはしない人間だから」。「普通のセックスつて」。彼が笑つた。「いれるセックス」。
1:11 煙草の臭ひのせゐで、頭が痛くて仕方が無かつた。「煙草、やめてくれる?」。私は立つた。「どこ行くの」。「トイレ」。廊下の空氣は、ひんやりして、新鮮に思へた。
1:13 トイレから歸つて來ると、テーブルの上に、くしやくしやの千圓札が置かれてゐた。「どうしたの、これ」。「俺、歸るよ」。「どうして」。
1:13 「今日は、ありがと。樂しかつたよ」。彼とはそれきりだつた。犯罪者になつた人との會話は、呆氣無かつた。
2:10 皆セックスの事ばかり考へてるのね。彼がセックスできないから歸つたと思つてるのね。分つてるくせに。普遍性。
2:11 ほら、“犯罪者と話した女”の言葉ここに散る、犯罪心理分析者の皆樣、御苦勞樣です。ああ、【犯罪者】ども。
2:11 誰かが私を、犯罪者と呼んだ。
2:11 犯罪者は言つた。「おやすみ」
はたと気が付いた。
それは、あまりにも自然であって、すんなりと自分の中に入り、受け止められたようにも感じられた。
昨日まではっきりしていた、描こうとしていたビジョンがもやがかって見えなくなる。
筆を持つときの空虚感がひどい。
かつて、自分が描いていったもの達が不可解な色付きの紙にしか見えない。
突然の違和感達が僕を襲った。
これが、僕の画家としての人生の終わりだ。
こんなにも長年積み重ねてきたものが消えるのがあっさり終了出来るものなのだとは、知りたくなかった。いや、多くの人は、知っているのだろう。僕は自分には該当していないと、そう何処かで考えて、関係ないものと断ち切っていただけだ。
今、画家として死んだ僕は、色が出きって必要のなくなったチューブと同じ。不用品は捨てられ、新しいものがやってくる。
僕という画家は、ただの色の一種として周りに認識されていただけなのだ。「かわいそうに」そういうだけで、その後の僕を心配してくれる人物など現れなかったのだから。
アトリエだった、色を無くした白い部屋で、それでもまだあがくように筆を握る。
予想通り、インスピレーションのイの字も出ないとこに、他人事のように驚いてしまった。
あぁ、僕は完璧に死んでしまっている。そう感じることこの上なかった。
感情を言い表すならば。寂しい?悲しい?辛い?苦しい?……いや、無だ。
誰しも、想像するのはたやすいことだ。
自分の生涯熱中しようと思っていたことが急に消えたとしたら。状況が飲み込めなくて…いや、飲み込みたくなくて思考が停止してしまう。
要は、現実を見たくないのだ。
僕の場合、虚無感の内に揺蕩っていたのはほんの数日だった。現状打破と言えば聞こえはいいのだが、とどのつまり、諦めるほか思いつかなかったのだ。
「中途半端に無理を形にする、見苦しい作品を作るぐらいならば。」
それは、元画家としてのプライドも偉そうに混在していた。
数年経って、僕は美術の教師の資格を得て、それを生業としていた。かつて僕が志していたものを、誰かの中に残したいと考えたからだ。僕の蓄積していたものを、すべて出し切りたいと。
ときたま、生徒に絵をせがまれるときがある。
すると僕は決まって同じものを描いた。
いつかの、限りが来て色を出し切った僕のような。
くたくたになった絵の具のチューブだ。
人生がもしゲームだったら僕は今すぐリセットボタンを押すんだ。全部始めからやり直して、嫌なことは全部まっさらにして、そうして悔いのないように生きるんだ。
僕の人生は糞だ。最悪だ。生まれたときから何もかもが決まっていて、どう足掻いたってどうしようもない。努力? 努力して何が変わるんだ。頑張って報われるのは才能があるやつだけじゃないか。
人生がもしゲームだったら僕は少なくともみんなに馬鹿にされないぐらいの能力を設定するんだ。どんなことでも頑張れば人並み以上になれるぐらいの能力が僕は欲しいんだ。誰とでも対等に付き合いたいんだ。
この顔だって嫌だ。こんな性格も嫌だ。全て嫌なんだ。
こんな僕を一体誰が好きになってくれると言うんだ。誇れるものなんて何もない僕を、一体誰が見てくれるんだ。親だって本当は僕のことをよく思ってないはずだ。もっと優秀で、もっとみんなから好かれて、もっと親思いな子が欲しかったはずなんだ。
人生がもしゲームだったら僕は自分を構成する全てを変えるんだ。顔はイケメンとまでとはいかなくても普通にして、性格は誰にでも優しくて悪いことをはっきりと悪いと言えるぐらい強くするんだ。そうすれば嫌なことなんて一つもないはずなんだ。
僕はもう間違えたくないんだ。誰も傷つけたくないんだ、傷つきたくないんだ。あの時ああすればよかったっとか、こうすればよかったとか後悔したくないんだ。もっと上手く立ち回りたいんだ。
人生がもしゲームだったら僕はもう間違えないんだ。何度だってやり直して、いい方の選択肢を選ぶんだ。そうすれば誰も傷つけないで、僕も傷つかないでみんな幸せで、楽しくやってけるはずなんだ。
僕の人生は本当に糞だ。なんで皆みたいにいいやつになれない、皆みたいに上手く出来ない、どうして僕はこんなにもダメな奴なんだ。一体どうすればいいんだ。誰も何も答えてくれない。
人生にはゲームみたいに答えはないんだ。何でも書いてある攻略本なんてないんだ。迷いながら、訳も分からず進むしかないんだ。苦しみながらこの人生の終わりを迎えるまで生き続けるしかない。
僕は僕でしかないんだ。何をどう変えても結局それを受け入れるしかないんだ。本当は全部分かっていたんだ。
人生がもしゲームだったら、僕は僕になれなかった。こんな僕を受け入れてくれた人とも会うことは無かった。僕はきっと空っぽな人間になっていたはずなんだ。
宅地化が進む水田地帯の一郭に、水田にも宅地にもならない奇妙な土地が存在する。約二十メートル四方の区画が吹き出物のように隆起しており、高さは四メートルほどである。雑草木が生い茂り、時々小鳥が羽を休めに飛んでくる。
その土地だけ整地されずに残されている理由を、古い大人たちは祟られるからだと主張した。名もなき豪族の古墳説や弱小武将の首塚説など解釈には幅があるものの、開発工事の直前に現場監督が事故死した、地鎮祭の途中で落雷した等、過去にあったいくつかの凶事は地方紙から確認できる。
親は子供に「あの土地へは近づくな」と教えたが、子供は無邪気にも近づいた。目当ては藪の中のエロ本であった。何者かが次から次へとエロ本を捨てていくらしかった。小学校高学年にもなれば、男も女も半数程度は性に興味を持ち始める。大人たちにはわからないよう、また敬意を込めて、子供らはその土地を宝島と呼んだ。
中学に上がると女はやがて興味をなくし、男らは半ば信仰のようにその土地を慕った。地図上に示された三角形の記号から、彼らはそこをフリーメイソンと呼ぶようになった。フリーメイソンに集まる者はみな自身が特別な存在であると信じた。特別な男たちは特別なエロ本で特別な自慰に耽った。
高校生の間では、エロ本から得た知識によりその土地は恥丘と呼ばれた。彼らは歳を偽ればエロ本などいくらでも買えるようになり、遠くのコンビニで手に入れては仲間内で回して読んだ。次から次へとエロ本が回ってくるため、最後に読む者は処分に困り、親の目を盗んでエロ本を恥丘に捨てた。
各々の事情から、その土地の話題を異なる世代と共有することはタブーとされた。そのため、各々の呼び名や解釈はごく限られた集団にだけ通用し、子供の解釈は次の子供へ、大人の解釈は次の大人へと受け継がれたわけである。
が、都会に出れば若者は狭い価値観から解放される。帰省してきた大学生は、昔教わったあの腫れ物のような土地の話を思い出し、苦笑しながら親に話した。
「あそこは国土地理院の土地なんだよ。三角点だから、呪いなんかなくても切り崩されるわけがないんだ」
うら寂しい年の暮れ、地方紙の片隅に小さな記事が載った。隣町に住む無職の男が「宝島」と呼ばれる土地の噂を聞きつけ、水田地帯の一郭に隆起した土地の一部を掘り返したところ人骨が出土した、とのことである。男は取材を受けた三日後に死亡している。
目の前で繰り広げられている光景をただ眺めている。その先に何かあるわけではない。
口論というには幼い内容で、言い争いというよりは口喧嘩みたいな。いや、言いたいことをただ主張しているだけで、争っているわけでもきっとないのだろう。
じゃあ、同じことを永遠と言い続ければ相手に伝わると思っているのか?
そんなことあり得ないと知っているのに?
あり得ないと思っているのは自分のほうか?
いつの間にか誰にも何も伝わらない、と思っていた。だから、誰かに何かを伝えることが面倒になった。
白黒ハッキリしているときは良いけれど、そうではなくて、感情とか考えとかそういうハッキリしない何かを誰かに伝えるのは面倒だと思った。
絶対に伝わらない。そう確信した瞬間があった。
相手は自分ではないし、自分も相手ではない。同じ言語を使っているようで実は微妙に違う言語を使っている。似て非なるもの、とはまさにこのことだと思う。
その言葉の裏にある感情みたいなものを全て理解できれば、もしかしたら分かり合えるかもしれないけれど、理解、なんて言葉を使っている時点で結局は全てなんてわからないのだろう。だから、言葉で伝わると思っていることは、なんと素敵なことだろう。誰かと何かを言い争うなんて、もう自分にはない。その自由な感じが羨ましいと思った。
永遠に続くかと思われた争いに急に終わりが来た。
「うっさい……」
唐突に上から冷たい一言が降ってきたのだ。
「今日出掛けんじゃねーの?」
冷ややかな視線を受けて、言い争っていたふたりは時計を見て慌てて玄関に走っていく。
「じゃーね」と急いで玄関の扉を開けて出ていくふたりに「いってらっしゃい」と手を振って見送る。
「すっかりたむろ部屋だな、ここ」
バタンと閉まるドアを見ながらアナタが言った。クスクスと笑うとアナタがこっちを見る。
「ナニ?」
不満そうな顔をしてローテブルを挟んで目の前にアナタが座った。
「いやいや」
「その時間には来るの、アイツ等?」
「レイトショー見てくるって言ってたから、その時間にはいないんじゃない?」
「は?」こちらを見るアナタは、意味が分からないという顔をしていた。
「今夜何見るかもめてたんじゃねーの?」
「そうだね」
「ナニそれ?」
「平和だってことだよ」
「お前もだけど最近の子はわけわっかんねーな」って言いながら、キミがテレビをつけた。
多分、これからもきっとここは平和だ。
そんな気がした。
見習い猫には、まだまだ覚えることが沢山あります。
その日は、初歩中の初歩である、右のレバーと左のレバーについて教わったばかりでした。
「いいか」と指導官は、胸に付けた一級指導官のバッジを光らせながら言いました。「この左右のレバーはな、ちょうど正午になると左右の役割がそっくり入れ替わるようになっている。従って右は左になり、左は右になるのだ」
見習い猫は、説明を聞くとしばらく腕を組み、急に何かを思い出したように口を開きました。
「指導官殿。私は子供の頃、レバーが嫌いでした。肉だと思って食べたら、どこか粉っぽいし、変な味がするので、なんだか騙されたような気分になったものです。大人になってもやはり好きにはなれないのですが、その不味い味がむしろ懐かしくて、心が少しほぐれることがあります。だからぜんぜん好きではないのに、無性にレバーを食べたくなる自分がそこにいるのです」
指導官は、ずいぶん人間っぽい話をする猫だなと思いました。そこで、手に持っていた見習い猫の書類をのぞいて見ると、経歴の欄に元人間だったことが書いてあります。
「無論、指導官殿が説明しているレバーと、食べるレバーは違うということは知っています。それに指導官殿の講義を私の話で中断させていることにも心苦さを感じていますし、あるいは猫のくせにお喋りが過ぎると不愉快に思われているかもしれません。ですが、まだ私が人間だった頃は、ほとんど他人と喋るということがなく、石ころのように自分を打ち捨てていたような気分でいました。自分は価値の無い人間であり、石ころに等しい存在なので喋る必要はないと……。しかし不思議なもので、猫になった途端に言葉があふれ出るようになったのです。雪が溶けて川が流れ出す時のように、私の中で季節や景色が変わっていったのです。私は猫になったことで、人間の頃に持っていたあらゆるものを失いました。しかしその代わりに、私は自分の言葉を見つけることが出来たのです。とはいえ、その言葉をどう発音したらいいのかということはまだ分からないのですが、こうやって喋っている時にぴったりとくる言葉を発音しているかもしれないと思うと心が踊ってしまい、指導官殿の左右のレバーの説明を聞いている最中も自分の言葉を発音することで頭がいっぱいになって、ちょうどいま正午になったので左右が入れ替わったのだなあと思うと同時に、お腹も空いてきた次第であります」
渡されたのは細かい間仕切りのある箱だけで、今後与えられるものすべてをそこへ入れていけばよいのだと理解した。何の変哲もない白い箱を目の前にして暫し途方に暮れるが、与えられるものを片づけさえすれば罪から逃れられるという恩赦に縋り、初日は眠る。
仕事は当初はあくびが出るほどに緩慢で容易なものだった。一日のうちに与えられるものはほんのわずかなうえにちっぽけなものだったので、深く考えずに空っぽの箱のなかへ放り込んでいくだけだった。むしろ空いた時間があることが憂鬱でたまらなかった。考えたところでもうどうしようもないことを繰り返し考え、それについて今の自分にできることは何ひとつないことを再確認しては胸が抉られるような心もちがし、涙を流し続けた。
やがて、自身の無能をいたずらにいたぶって愛でるという無為な時間潰しが不可能になるほど、日々の仕事は忙しくなっていった。
まず、与えられるものの量が増え、それぞれが複雑な形状で嵩張るものになっていった。箱にはまだ余裕があるので分類表を作成し、それに従って詰め直すことで難を逃れた。
けれども、それでは追いつかないほど、日々、仕事は忙しくなっていった。
与えられるものが日に日に増大し、複雑さを極めていく。毎日のように分類表を作成し直し、せっせと箱のなかに詰め直していく。一分の隙間も出ないように入れ方に工夫に工夫を重ね、知恵では足りなくなった分は力任せに詰めに詰め込んで。
日々新たに分類表を作成し直し、与えられたものすべてを箱のなかへ押し込めていく。その間も次から次へと本日の残り分が新たに与えられ、箱のなかへ詰める作業が増えていく。分類表を煮詰め直す余裕はなくなった。与えられたものを考える暇なく流れ作業のように箱の上へ重ねていく。次から次へと本日の分が与えられ、次から次へと上へ上へ重ねていく。機械的にそうする。追い立てられ焦りながら、せっせせっせと積み上げていく。
すでに分類表は擦り切れて役に立たなくなっており、間仕切りも消滅した。細く高く聳える不安定な塔は、考えなしにそれを積み上げていった者をもやがて呑み尽くして倒れてしまうだろう。そんなことはわかっている。それでもせっせせっせと積み上げていく。
その塔を造りあげてしまったことこそが己の罪だとは最期の瞬間までわからぬままに。
日が暮れかけていた。友人はふさぎこんでいた。話を聞いて欲しそうだった。水を向けると人混みは嫌だと言った。俺たちは川のほとりへ向かった。川には橋が架かり、車が激しく行き交っていた。途中で停車する車はなかった。車のエンジン音と逆光に遮られながら友人は何かを言った。友人の表情は黒い影の奥で蠢く得体の知れない何かだった。俺は友人の傍に身を寄せた。
アイツに彼女ができたんだ。友人はそう言った。良かったなと答えた。良くないよと友人は言った。太陽は既に沈んでいた。下半分だけの欠けた月が低く昇っていた。きっかけは匂いだったと友人は告げた。
着替えのときにアイツの乳首が見えちゃったことがあって、確信したんだ。なにを。フェラチオしたいって。……う、うーん。そういう反応になるだろうね。なりましたね。自分のことながら同感を禁じ得ないんですよ。はあ。
会話は続く。
さすがに両方は抱えきれなくて。両方? 性指向と失恋。どちらにせよ言葉がないわ。別にアドバイスとか求めてないし、それにできないでしょ。なにそのキモい反応、キスでもしてやろうか。普通にキモいしそういうのいらないし。そういう感じか。おあいこ、それに友達とはセックスしません。同意見です。だからハグで。あ、はい。
俺達は川のほとりで抱き合った。だからといって何も解決はしないが、まあ大体のことがそんなものだろう。
夢を見た。俺は薄暗がりの中、車に揺られていた。バスだった。反響する音でトンネルにいるのだとわかった。
バスにはいくつかの死体が転がっていた。座席には、両親に初めての嘘をつかなかった男、誰かの好意を無視しなかった男、欲のままに盗まなかった男などが座っていた。ここにいるべきではない、俺はそう考えて下車した。なんの躊躇いもなくバスは去った。
恐怖による凄まじい動悸とともに目覚めた。俺は立ち上がっていた。いつ眠ったのかもわからなかった。カーテンの向こう側に焼け付くような太陽があった。
受け入れられ、満たされることのないまま人生は続いていき、やがて家族を持ち、老いさらばえてなお絶えぬ渇望の炎に焼かれ続ける異物たち。或いは海底に置き去りにされた既に諦められたまだ生きている死体。自分という得体の知れない病巣。
俺は友人の抱える孤独への恐怖の縁に触れることができたような気がした。気がしたが、どうせ思い違いであっても、乾燥した味気ない日々は続く。