第196期 #1

犯罪者の氣持

0:57 「犯罪者の氣持」、なんて一括りにはしたくない。その人らはたまたま「犯罪者」になつただけで――下品な惡意から、人を突落して來た連中なんて、このサイトにはいくらでもゐるでしよ。ただ「犯罪」になつてゐないだけで。私は――ある時犯罪者と話した事がある。

0:59 「俺には性慾が無いからね、何したつて無駄なんだ」。「ぢやあ、どうして强姦したの?」。「その女がむかついたから。できなかつたら、毆るなり何なりしてた」。それから、「こはくないの」と言はれた。

1:04 私たちはカラオケにゐた。こんな話、人がゐるところぢやできないから。「すごく、近い」。數センチの間しかなかつた。「誘つてゐるの」。私は赤面した。體に震へが走つた。「何でこんなに近いの」。

1:09 「だつて、こはがつてるつて、相手に思はせたくないから」。私は言つた。彼が、じろじろと私の顏を見た。「私は……確かに男が好きだけど、勿論强姦されたいわけぢやないよ」。「ぢやあ、俺が誘つたら」。

1:10 私は、彼とホテルにゐるところを思ひ浮べ、それから好きな人を思ひ浮べた。「しないよ」。「ふうん、他の日は」。「あたしは、普通のセックスはしない人間だから」。「普通のセックスつて」。彼が笑つた。「いれるセックス」。

1:11 煙草の臭ひのせゐで、頭が痛くて仕方が無かつた。「煙草、やめてくれる?」。私は立つた。「どこ行くの」。「トイレ」。廊下の空氣は、ひんやりして、新鮮に思へた。

1:13 トイレから歸つて來ると、テーブルの上に、くしやくしやの千圓札が置かれてゐた。「どうしたの、これ」。「俺、歸るよ」。「どうして」。

1:13 「今日は、ありがと。樂しかつたよ」。彼とはそれきりだつた。犯罪者になつた人との會話は、呆氣無かつた。

2:10 皆セックスの事ばかり考へてるのね。彼がセックスできないから歸つたと思つてるのね。分つてるくせに。普遍性。

2:11 ほら、“犯罪者と話した女”の言葉ここに散る、犯罪心理分析者の皆樣、御苦勞樣です。ああ、【犯罪者】ども。

2:11 誰かが私を、犯罪者と呼んだ。

2:11 犯罪者は言つた。「おやすみ」



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