第194期 #2
嫌いで嫌いで仕方がない君が目の前のステージで歌っている
確か君と会うのは去年振りかな
確か君の歌を聴くのは、それよりもっと前だったな
大抵の事は直ぐに忘れてしまえるのに
何故か君のことばっかり、嫌で嫌で頭にへばりついてしょうがなかった
君と顔を合わさなくなっても、何故か頭にへばりついて残ってたよ
嫌い、嫌い、嫌い、嫌い
好きだった人なのに
嫌い、嫌い、嫌い、嫌い
それが君
「なんで」と「無理でしょ」
それが私と付き合ってた時の、君の口癖
言葉に詰まる私と、行き詰まろうが終わらない喧嘩
3時間、4時間の終われない長電話
寂しがり屋の君と、ほどほどの付き合いで良かった私
「どうせ、その程度の好きなんでしょ」
君の見透かす様にして吐き捨てられた言葉は、図星だった
中央寄りの最前列、私は君の一番近くで歌を聴いていた
目線は合わない、合わせない
それでも歌声に惹きつけられて顔を上げる
珍しく化粧をした君が、目を輝かせて真っ直ぐに声を届ける
生き生きと歌姫を演じきる君がステージに居た
一番近いのに一番遠い君を、眺めていた
嫌いでしょうがない筈の君を、眺めていた
いつか嫌いな君を忘れてしまいたかった
いつか嫌いな君を許してあげたかった
歌声を聴きながら過ぎる、君を好きになった記憶
そうだね、君の歌う姿が好きだったんだ
あの時は、私も一緒に演奏していたっけ
こうして正面から君の歌を受け止めるのは、そういえば初めてだね
あの頃、
私の事を気にする素振りが可愛くて、私こそ気になっていったんだ
遠くにあった思い出が溢れ出て、嫌いな筈の君でもあの時は好きだったんだと振り返る
「君は、私が好きだった人」
「お互いに、必死で向き合った相手」
そう思えば、どうにも許せなかった君のことが、やっと許せる気がした
感情は頑固に見えて移ろいやすい
こびりついた負の感情でさえ、今まさに剥がれ出している
最後の演奏を惜しむ拍手が響いた
君は目一杯手を振って拍手に応えていた
一段と素晴らしい歌声を届けた君に、私も笑顔で拍手を送った