第194期 #1
君は笑うだろうか。来る日も来る日もこの場所に立ち続け待ち続けた日々を。笑ってくれるだろうか。遠くから見つめる事しか出来ない弱虫な僕を。街と町とまちが交差するその場所で人々に見放されたであろう僕と君が交わる日はまだ来ない。晴れでも雨でも黒い服を見に纏う君は一度も笑顔を見せてくれない。一度でいい、君の笑った顔が見てみたい。そう思った時から僕は君に恋をしている。名前も声も、笑顔だって知らない君に、僕はずっと恋してる。思いきって近づいてみようか。そう思っても僕の足は思うように動いてくれない。どうやら僕と僕の足は表裏一体よろしく同じように弱虫だった。僕と君の間にはだいぶ距離があるけれど、何十何百人通ったって僕は他人事のようにやり過ごす。だって僕の瞳には君以外何も入らないのだ。
想い続けてもこの想いが君に届く事はないと気が付いたのは、僕が君に恋した日から100とんで1年の月日が経ってからだった。僕はとっくに死んでいた。同じように、君も。前しか、君しか見えてなかった僕は、足元に飾られた沢山の花束の意味も、全く容姿の変わらない僕らの意味も、何一つわかっちゃいなかった。視線を落とせば君の周りにも同じように花束はあったのに。
そうだ、僕は地縛霊。どうりで足が動かない訳だ。僕は弱虫じゃなかったんだ。思いきって話しかけてみる。
「ハロー、ハロー、聞こえてますか?」
僕と君のまわりには様々な音が鳴り響いているけれど、君は初めて僕を見た。
「ハロー、ハロー、聞こえてますよ」
同じく初めて聞く君の声は今まで聞いたどんな声よりも可憐で、透き通った声だった。いつも君を想ってた。そう言うと君は私も、と言って笑ってくれた。
僕たちの100とんで1年の片想いの日々は100とんで1年と1日経ったところでようやく両想いに変わった。僕が君に、改めて君が好きだと伝えたら、君は可笑しそうに笑ってこう告げた。
「私の方が先にあなたを好きになったのよ?だって私は、あなたが生きてた時からずうっと好きなんだから」
ずっと待ち望んでた君の笑顔は、僕が想い描いてたものとはだいぶ違ったけれど、僕も君も地縛霊で良かったと思わずにはいられないような少しの恐怖を残して僕の初恋の話はここでおしまいにしようと思う。
終。