第194期 #3

鳥の名前

何も言うことも無く、静かに授業は終わった。ポツポツと空いている席は、不登校の人の席。その人たちが、どんな生活をしているのかには、全く興味が無い。かと言って、人生の脱落者だと言えるほどの、そんな進学校に言っているわけでもなく。楽しいことがない訳では無いけれど、嫌ではなく、やりたくないことが多すぎる。そんな僕に女友達が言ってきた。「お金欲しいよね。」 突然の言葉に驚いたけど、彼女の家庭はそれほど貧しくもない。だから冗談だと思って振り向いたのだが、その表情は普通だった。そして、「私も不登校しようかな。」と言った。それは、あまりにもさり気なくて、何も言えなかった。この何かから与えられた青春という時間を、学校の授業というありふれた空間で潰すのが嫌だったのだろうか。僕は、「学校くればいいんじゃない。」と言った。すると彼女は、「そう言うと思った。だって満足してそうだもんね。」と。次の日から、彼女の姿はなかった。その日からわたしは、満足と幸福が違うことを知った。何故なら、彼女の姿を見なくなって、淋しかったから。人が別の道を選ぶことの、哀しみも知った。大人になることの難しさは、窓の外の薄い雲だけが知っていそうな気がした。



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