# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | あてもない休日、あてもないセックス。 | ウワノソラ。 | 999 |
2 | ロストマン | 霧野楢人 | 1000 |
3 | アスパラガスは夜の沈黙 | ハギワラシンジ | 999 |
4 | 赤ずきん | 岩西 健治 | 1000 |
5 | アイシテル | 塩むすび | 997 |
6 | 機械の妹 | euReka | 1000 |
7 | 空 | テックスロー | 999 |
8 | 天使 | qbc | 1000 |
9 | たこ焼きを食べながら | ナイツ | 496 |
じりじりと蒸した空気がまとわりつく。古びたクーラーは一応効いている、筈だけど。私だけじっとりと汗をかいて、ぐったりしていた。
「どう? 気持ちよかった?」
上から見下ろして、花ちゃんが言う。別にいちいち聞かなくても分かるようなことを、彼女は言葉で確かめたがる。
「んー……。そりゃ、まぁ」
頭の中が沸騰したみたいに、可笑しくなってきていた。いったい何回したがるんだろう。夜中から始まったそれだが、短い仮眠をいくらか挟んで繰り返しずるずると続いていた。
「もう、疲れて眠いんだけど。一緒に寝よ? 眠くないの?」
「そうだねぇ、私も眠くなってきたかなぁ」
ごろん、と隣に寝転んで彼女は機嫌良さそうに笑ってた。
「恵さん。可愛かったなぁ……っ」
にじり寄って鼻先が着きそうな距離で、にぃっと笑う。
「ん……、そうかなぁ」
「そうだよ、いつもすっごく可愛いんだよ? 堪んないんだからねっ」
満足気に話した後、だから恵さんが悪い、と意地悪気に付け加えた。
「え、えぇー? 私が?」
「そうなんだよー」
「はぁ。でももうちょっと手加減してくれたっていいじゃん。体力ないんだから」
持久走のようなセックスに散々付き合わされて、目の前で大袈裟なため息をついてやりたかったけど代わりに大きくあくびをする。寝不足と、身体のいたる所から感じる疲労感で、もう気持ちいいとか気持ちよくないとかどうだっていい。
「なんか、恵さんだと我慢できなくなっちゃうの。でも、いつもつき合わしちゃってごめんね」
申し訳なさそうにうな垂れるのを見ていると、燻りそうになっていた憤りがしぼんでいく。
「ほんとだよ。身体がもたないや」
そう零しつつ、心の中ではしょうがないことだと承知していた。彼女も干からびそうな私を見て無理させていることには気がついているけど、毎度自制が効かないみたいだった。
花ちゃんは私の頭をゆっくりいい子いい子しながら、ごめんね。ごめんね、と小さな声で謝っている。
「恵さん、ゆっくり寝ていいからね。いびきいっぱいかいていいからね」
「そりゃ、こんだけ疲れたらいびきもかくわ」
ふふっ。と鼻で笑い返され、撫でていた手が止まったかと思うと顔にいくつかキスが落ちてくる。もそ、と私も顔を近づけてゆっくり唇を合わせた。
「おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
昼も過ぎた頃、やっとゆっくりとした眠りに二人でついた。シャワーなど後回しに、じっとりしたお互いの肌を重ねるようにして。
亀岡係長と西課長の左遷が決定した。これにより、二年続いた社内紛争は今後終息へ向かうことが予想される。私も部下として彼らの片棒を担いでいたため、近日中に肩を叩かれる可能性は高い。まるで他人事ですね、と矢作は呆れていた。無論、技能・管理力ともに不十分、かつ人事有権者に味方を持たない私に楽観的な要素はない。したがって、先行きに対する期待値は極めて低い。
帰りに吉村に会った。全くの偶然である。共に学生時代を山に捧げた仲でありながら、再会したのは双方気まぐれに迷い込んだ繁華街であった。彼女は司法試験合格ののち、修習を経て今は弁護士事務所にいるらしい。名刺をもらった。離婚になったらよろしく頼むと言うと、結婚したんですかと驚かれた。もちろんまだである。
居酒屋で少し話をした。吉村は多忙のため俗世間に疎くなっており、他の部員の近況を知らなかった。小出は寿司職人を目指していること、関は農学博士を取り、ポスドクをやっていること、等。彼らが犯した数々の失態と照らし合わせ、我々は「誰一人イメージが合わない」という結論に落ち着いた。相変わらず屈託なく笑う後輩であった。
追記
私の近況に対する吉村の反応が印象に残っている。
「先輩の会社なんて、内部告発ひとつあればすぐにぺしゃんこですよ」
「酷いことを」
嘆く私を上目に見てから、秘密なんですけど、と続けて吉村は打ち明けた。
「わたし、今でも持ち歩いているんです」
ボタンを一つ外し、彼女は襟元に手を入れて紐を引っ張り出した。使い古して油の抜けたコンパスがぶら下がっていた。
「まだちゃんと北を向くんですよ」
街でもよく迷うから、との釈明を受け、私は別れ際に冗談で「また森の中で会おう」と言った。吉村は笑った。
この日から一年半後に会社を辞めた。更に半年が経った今、山村でハンターめいた仕事に明け暮れている私がいる。役場から嘱託の内定通知を受けた際、一番に想起したのは吉村の顔であった。これはおそらく、私の進路が彼女の影響を有意に受けていることを示唆する。
吉村と会って以降、森の中に机を置き、コンパスを下げ、法律書に囲まれて仕事をする彼女の姿がたびたび頭に浮かんできた。吉村の事務所では、朝になるとカラ類の混群が鳴き交わし、秋にはミズナラの堅果が音を立てて降ってくる。そんな光景であった。
彼女にまた会いたくなった。会えたら伝えたい。私もコンパスを手に歩き続けている。
人間の元に突如として現れた緑色の細長い植物。それは人をストレスから解放した。
それを握って「turn(曲がれ、さけろ、切り替えろ)」と願うと、それは分裂し二つになった。新しくできたそれにはストレスが詰まっていた。それらはふわふわ浮かんでどこかに飛んで行った。
そうして私たちに潜む夜は消えた。私たちにもたらされたのは明るい緑の光だった。私たちはそれをアスパラとか、アスパラガスと呼んだ。
アスパラガスは代表者を一人地球に寄越した。私は親しみを込めて彼を「陛下」と呼ぶ。
陛下は人間の形をして普段は眠っている。47日に一度目を覚まし、人に指標を示してくれた。
ある日「陛下」が私を呼び出した。
陛下は私に木星に行くように 言った。木星に行けば人類の繁栄が約束されるらしい。宇宙船が準備され、私はそこに何人かの搭乗員と共に乗り込む。
木星にはアスパラの分体がたくさんいた。
分体は虚構を食べるので、嘘つきたちを愛した。搭乗員はみんな嘘つきばかりだったので、分体に愛着を感じ、地球に戻らなかった。私は宇宙船に乗り込み地球に戻ろうとするが、誤ってアスパラガス星にワープしてしまった。
アスパラガス星で私は重要人物として迎えられた。彼らはアスパラが含むストレスを嗜好品として嗜んでいたらしい。地球のアスパラが至るところにふわふわ浮いて、彼らはそれを接種している。
私のストレスは全て吸い付くされ、アスパラガス星人のようになった。彼らとの違いは一つだけ。アスパラガス星人は夜を認識できなかった。彼らは暗闇を感じたことがない。彼らの星の回りは常に光輝く星が回っていたので、夜が訪れなかった。また、精神的にストレスを感じないため暗い感情も起こらなかった。
私はその生活に嫌気が差して逃げ出した。でも、アスパラガス星人は宇宙船で追いかけてくる。私は宇宙船の防衛装置でアスパラガス星人を攻撃した。アスパラガス星人は「攻撃する」という概念を持っていなかった。 初めてその概念に触れたアスパラガス星人は種族間で攻撃しあい、破滅した。
私は冥王星に不時着した。そこには陛下がいた。陛下は「地球から夜が消えてしまったので引っ越してきた」と言った。
また「私はアスパラガス星人が嫌いだったんだよ」と言った。
私は陛下と別れ地球に赴く。地球では何万年もの時が流れていて、人々は沈黙していた。幸福そうに目を閉じ眠っていた。静かだ。アスパラでさえ沈黙するほどに。
ヤラれてしまったようです。
看護大学と言えば、何となく女子のイメージだけど、実は男子も結構いるんです。
そんな大学の三対三のコンパで、鮎喰と一緒に帰ったけど、ワインを飲み過ぎたのか、記憶は途中から曖昧でした。
体験としての実感はなくても、ヤラれたことは身体が感じていたし、婦人科でも、その痕跡は確認できて、一週間は中がヒリヒリと痛みました。
たぶん、近しい人の仕業だとは感じていました。だったら、誰がということだけど、コンパに行った二人の女子に鮎喰以外の男子の帰路をそれとなく聞いて、やはり、わたしと帰る方向が一緒だった鮎喰が一番怪しいんじゃないかと推察しました。
万が一、犯人が鮎喰じゃなくて、まったくの第三者の仕業だとしたら、それこそ本物のレイプになってしまうけど、わたしが目覚めたのは自分の部屋だったし、荒らされた形跡もなかったから、やはり、鮎喰が犯人でいいはずです。
わたしは鮎喰をガストへ呼び出しました。
鮎喰は目を合わせません。それどころか、ずっと下を向いたままです。
「今日、呼んだ理由分かるよね?」
「ちゃんとゴム付けたからさ」
「(おいおい、そういう問題かよ)まだ痛いんだからさ」
鮎喰はわたしが本格的に問いつめる前にあっさり白状しました。
律儀にゴムを使うなんてとは思ったけど、妊娠は免れたのでそれはそれで安心でした。
過ぎたことは仕方ない、現実的に考えようとは、姉の受け売りです。
姉曰く、
「ま、好きでもない男だったのは不幸だとしても、どうせ恋人になった誰かには入れられるわけだしさ、それを逆手に取ったらどう? とりあえず、そいつの個人情報はゲットすることだね」だって。
頼りになるのか、他人ごとだからなのか、そんなところが姉らしさではあるんですが。
大学が同じだし、退学しない限り連絡がつかなくなることはないはずだけど、念のために友人伝いで実家の住所と電話番号は手に入れてあります。住居とバイト先も突き止めてあります。
姉の指示通り、とりあえず、十二万は没収しました。陵辱行為のことをちらつかせたら案外あっさり支払いました。新しそうな外観の2DK住まいだし実家も大きいらしいので、支払いにはまだ余裕がありそうです。卒業までにはもう少し巻き上げたいけど、わたしもオオカミではありません。逆恨みされない程度にじっくりと締め上げてやるつもりです。
もちろん、ガストは鮎喰におごらせます。
月蝕の月の赤い夜のことだった。悟は自宅でひとり飲んだくれていた。というのも、悟には付き合って一年ほどになる茜という歳の離れた若い彼女がいるのだが、折角の週末だというのに急用が入ったということで泊まりの予定をドタキャンされたからだ。
自虐には鈴がふさわしい。悟はそんな気分からワインの空き瓶にツマミの豆を落としてみたが、いつまで待っても豆が瓶底に落ちる音は響いてこない。瓶の口を覗くと、その中にはまるでジオラマのような夜の町が広がっていた。町の喧騒は遠く、悟の覗く月の穴までは届いてこなかった。
ひときわ赤く輝く光点がレストランに灯っていた。悟と茜の思い出の店だった。店内には可愛く着飾った茜が若い男と座っていた。二人はテーブルの上でお互いの手を弄びあっていた。店を出た二人を導くように赤信号が連なっていた。その先にはマンションがあり、ある一室が赤く光っていた。室内には女が一人、思い詰めた目を鏡の中の自分に向けていた。
茜は信号のたびにキスをせがんだ。茜にとって異常な赤信号の連なりは運命の粋な計らいだった。けれど二人がキスを交わす足元には止まれの道路標示があった。道路わきの進入禁止の標識は途中で折れ曲がって塀に食い込んでいた。踏切では遮断機が下り、警笛が鳴り響いていたが、二人はひょいと潜り抜けて笑い合った。茜は警告に気付けない。
覗き穴から見たフィクションのような世界で茜はキラキラと輝いていた。
やがて二人は男の自室に到着する。言い合う男女。突き付けた包丁を投げ捨てて出ていく女。男に向けて伸ばした指先を振り払われる茜。ありきたりな修羅場だった。
その包丁に光点が発生した。茜は迷わず包丁を手にとった。茜が震えながら何かを呟いた。なにしてる、さきにしぬ。声の届かない悟にはそう呟いたように見えた。かみにきけ、茜がそんなような言葉を叫んだ。それから茜は意を決して包丁を自分の腿に突き立てた。鮮血が迸り、窓に飛沫が散った。茜は振り返って空を見上げた。その顔にはやり遂げたような、軽蔑するような、そんな表情が浮かんでいた。
たいへんなことになった。報復か、介抱か。悟が瓶から目を離すと、花瓶が赤く輝いていることに気が付いた。薔薇が狂い咲いているかのようだった。茜は運命に打ち勝った英雄なのだ。悟が冷蔵庫の扉を開けると目が眩むばかりの光が溢れ出した。とっておきのワインが燦然と輝いていたのだ。
妹は欲望を持っている。見た目は褐色の小石であり、表面がつるつるしているので触り心地は悪くない。
「あんまりじろじろ見ないでよ」と妹は言うと、私の手からそれを奪い返した。「兄さんみたいに欲望を持っていない人には分からないでしょうけど、これは誰かに見せたり、触らせたりするのはとても恥ずかしいことなの」
世の中のほとんどの人間は私のように欲望を持っていないので、妹のように持っている人間はうらやましく思われたりもする。欲望は一生働かなくていいほどのお金で売れるとか、欲望を使えば一度だけ生き返ることが出来るといった話があるからだ。
「でもあたしは誰かに売る気はないわ」と妹は遠くを見ながら言った。「それに、死んだあと生き返るっていうのも、ゾンビみたいで嫌ね」
妹は、以前に宣言した通り欲望を売ることはなかったが、あるとき、空から降ってきた隕石に当たって死んでしまった。生前の妹は、生き返りをあまり望んでいなかったようだが、私はどうしても妹の死を受け入れることが出来なかった。
実際にやってみて初めて知ったのだが、欲望を使った生き返りとは、誰もが想像する肉体の生き返りではなかった。それは欲望の小石を機械に組み込んで、本人の欲望を受け継いだ機械人間を作ることだったのだ。そして妹に当たった隕石というのは、調べてみると、どこかの宇宙人が持っていた欲望の小石だということが分かった。なので私は、それをお金に換えて機械の妹を作る資金にした。
機械の妹を完成させるのに十年もかかってしまったが、見た目や声はそっくりに作ることが出来たし、妹の欲望も上手く機械に移植することが出来た。長い眠りから覚めた妹に一連の事情を説明すると、悪い冗談はやてめてよと言って信じようとしなかった。
「もしその話が本当だとしても、あたしはただ生きていくだけよ」
それからしばらくすると、妹を一度死なせてしまったあの隕石の元々の持ち主が現れて、妹に結婚を申し込んできた。彼は宇宙人だったが、耳が少し長いというところ以外は我々と変わらない姿だった。彼の隕石を勝手に売ってしまったことを私が謝ると、彼は妹に隕石をぶつけてしまったことを謝った。
結局、妹は宇宙人と結婚することはなかったが、今度は宇宙飛行士になって旅へ出てしまった。三百年後には帰ってくる予定だと言っていたので、今私は、未来の妹を迎えに行くためのタイムマシーンを作っているところだ。
それにしても今日は空が青い。太平洋に面したこの街は晴れの日が多く、日本海の冬を知る幸彦はここに越してきた当初面食らったものだった。「白痴のような」と何度か揶揄したことのある空だったが、その青さに救われることも多々あった。歩道橋の上で、幸彦はもうずいぶんと長い間空を見ている。
歩道橋を昇ってくる女性の姿があった。紺色のリクルートスーツに身を包んだ女は幸彦より若かった。ヒールの高い音が下を走る車の音の合間を縫って幸彦の耳に届く。幸彦のそばを通るとき、風が吹き、女の髪を乱した。女は迷惑そうに眉をしかめて髪を手で整えた。幸彦はため息をついて女の後姿を見つめていた。
幸彦は女の後姿に「久しぶり」と声をかけた。女は怪訝そうな顔をして振り返ったが、幸彦の顔を認めるや、わけのわからない、といった顔をした。見知らぬ人に声をかけられたことは初めてではなかったが、この悩みを抱えた風貌のやせ男には危なさというより人を不快にする何かがあった。女は少し考えた後その不快さは冬の濡れたシンクにとても似ていることに気付いた。風邪をひくタイプの冷たさを与えるものだ。危なくはないが、あまり近寄るべきではない、そう思うや女は踵を返して目的地に向けて歩みを進めていた。いつしか濡れたシンクのこともすっかり忘れていた。だからほんの二分後、歩道橋を降りた先で幸彦が先回りして待っているのを見ても何も気づかず、少し不快な印象を人に与える男がいるなとしか思わなかった。
肩で息をしながら幸彦はじっとりと背中に汗がにじむのを感じた。歩道橋から飛び降りるような勢いで駆け下りた先で認めた女は赤の他人だった。数年前母親の葬式に来てくれた近所の女子高生だと思ったが改めて見た女の顔にセーラー服を合わせると全く違うことが分かった。その女子高生は母の教え子の一人だったが、母は教師だったというわけではない。そもそも幸彦の母はまだ生きているし、三十二年生きている中で幸彦は葬式に参列したこともない。母は専業主婦だが、時々先生ぶるような口調をすることはある。台所の立ち姿を後ろから見ながら、黒板に何か数式を書き付ける教師の姿を重ねたりもした。
そんな母がもし死んだとすれば悲しいだろうなと幸彦は思った。母が教師だったとして、亡くなったとすれば駆けつける女子生徒はこんな顔だろう、という想像と女の顔は全く違い思わず幸彦は声を上げた。「君の、名前は」
雨の激しい11月に、どうしても会いたい人がいた。子供の頃からの友達で、もう三十年にはなる。最近、仕事をリストラされたらしく、毎日テレビを見ている生活みたいだ。学生時代にはサッカー部に所属して輝いていた奴が、こんなふうになるとは思いもしなかった。あの頃は奴の方が上で、俺はその陰にと隠れて暮らしていた。いま思えば奴を上手く利用して、青春を生き残ったと言ってもいい。誰にでも、そんな奴はいるかも知れない。いや、いないかも知れない。でも何処か心苦しく感じるのは、年齢を重ねたからなのだろうか。十代の時には、嫉妬に似た殺意を覚えた事もあったのに、今では違う。友達の関係ってのは、二人以外には分かるまい。それどころか当人同士も分からず、その方が長く続いたりする。わたしはリストラされることも無く無難に生きてきたが、むしろ今の方が気持ちは楽にとなっている。青春に生き残れた私に出来ることは、奴に会いに行くことだろう。だから奴の好きな「たこ焼き」を買って、激しい雨の中を歩いた。友達の出来ることなんて、そんな無い。たこ焼きを買うぐらいしか。だから、その中に大きめのタコが入っていることを願った。奴のために。