第193期 #4

赤ずきん

 ヤラれてしまったようです。

 看護大学と言えば、何となく女子のイメージだけど、実は男子も結構いるんです。
 そんな大学の三対三のコンパで、鮎喰と一緒に帰ったけど、ワインを飲み過ぎたのか、記憶は途中から曖昧でした。
 体験としての実感はなくても、ヤラれたことは身体が感じていたし、婦人科でも、その痕跡は確認できて、一週間は中がヒリヒリと痛みました。
 たぶん、近しい人の仕業だとは感じていました。だったら、誰がということだけど、コンパに行った二人の女子に鮎喰以外の男子の帰路をそれとなく聞いて、やはり、わたしと帰る方向が一緒だった鮎喰が一番怪しいんじゃないかと推察しました。
 万が一、犯人が鮎喰じゃなくて、まったくの第三者の仕業だとしたら、それこそ本物のレイプになってしまうけど、わたしが目覚めたのは自分の部屋だったし、荒らされた形跡もなかったから、やはり、鮎喰が犯人でいいはずです。

 わたしは鮎喰をガストへ呼び出しました。
 鮎喰は目を合わせません。それどころか、ずっと下を向いたままです。
「今日、呼んだ理由分かるよね?」
「ちゃんとゴム付けたからさ」
「(おいおい、そういう問題かよ)まだ痛いんだからさ」
 鮎喰はわたしが本格的に問いつめる前にあっさり白状しました。
 律儀にゴムを使うなんてとは思ったけど、妊娠は免れたのでそれはそれで安心でした。

 過ぎたことは仕方ない、現実的に考えようとは、姉の受け売りです。
 姉曰く、
「ま、好きでもない男だったのは不幸だとしても、どうせ恋人になった誰かには入れられるわけだしさ、それを逆手に取ったらどう? とりあえず、そいつの個人情報はゲットすることだね」だって。
 頼りになるのか、他人ごとだからなのか、そんなところが姉らしさではあるんですが。
 大学が同じだし、退学しない限り連絡がつかなくなることはないはずだけど、念のために友人伝いで実家の住所と電話番号は手に入れてあります。住居とバイト先も突き止めてあります。

 姉の指示通り、とりあえず、十二万は没収しました。陵辱行為のことをちらつかせたら案外あっさり支払いました。新しそうな外観の2DK住まいだし実家も大きいらしいので、支払いにはまだ余裕がありそうです。卒業までにはもう少し巻き上げたいけど、わたしもオオカミではありません。逆恨みされない程度にじっくりと締め上げてやるつもりです。
 もちろん、ガストは鮎喰におごらせます。



Copyright © 2018 岩西 健治 / 編集: 短編