第193期 #3

アスパラガスは夜の沈黙

人間の元に突如として現れた緑色の細長い植物。それは人をストレスから解放した。
それを握って「turn(曲がれ、さけろ、切り替えろ)」と願うと、それは分裂し二つになった。新しくできたそれにはストレスが詰まっていた。それらはふわふわ浮かんでどこかに飛んで行った。

そうして私たちに潜む夜は消えた。私たちにもたらされたのは明るい緑の光だった。私たちはそれをアスパラとか、アスパラガスと呼んだ。

アスパラガスは代表者を一人地球に寄越した。私は親しみを込めて彼を「陛下」と呼ぶ。
陛下は人間の形をして普段は眠っている。47日に一度目を覚まし、人に指標を示してくれた。

ある日「陛下」が私を呼び出した。
陛下は私に木星に行くように 言った。木星に行けば人類の繁栄が約束されるらしい。宇宙船が準備され、私はそこに何人かの搭乗員と共に乗り込む。

木星にはアスパラの分体がたくさんいた。
分体は虚構を食べるので、嘘つきたちを愛した。搭乗員はみんな嘘つきばかりだったので、分体に愛着を感じ、地球に戻らなかった。私は宇宙船に乗り込み地球に戻ろうとするが、誤ってアスパラガス星にワープしてしまった。

アスパラガス星で私は重要人物として迎えられた。彼らはアスパラが含むストレスを嗜好品として嗜んでいたらしい。地球のアスパラが至るところにふわふわ浮いて、彼らはそれを接種している。
私のストレスは全て吸い付くされ、アスパラガス星人のようになった。彼らとの違いは一つだけ。アスパラガス星人は夜を認識できなかった。彼らは暗闇を感じたことがない。彼らの星の回りは常に光輝く星が回っていたので、夜が訪れなかった。また、精神的にストレスを感じないため暗い感情も起こらなかった。
私はその生活に嫌気が差して逃げ出した。でも、アスパラガス星人は宇宙船で追いかけてくる。私は宇宙船の防衛装置でアスパラガス星人を攻撃した。アスパラガス星人は「攻撃する」という概念を持っていなかった。 初めてその概念に触れたアスパラガス星人は種族間で攻撃しあい、破滅した。

私は冥王星に不時着した。そこには陛下がいた。陛下は「地球から夜が消えてしまったので引っ越してきた」と言った。
また「私はアスパラガス星人が嫌いだったんだよ」と言った。
私は陛下と別れ地球に赴く。地球では何万年もの時が流れていて、人々は沈黙していた。幸福そうに目を閉じ眠っていた。静かだ。アスパラでさえ沈黙するほどに。



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