第192期 #4
青年A「先生。今日ここに来たのは他でもありません。僕の元彼女であるMについてご相談するためでして。なんと言いますか、少し、いえ、紛れもなくMは異常なんです。あいつには自傷癖があるのです。先生、これが何かわかりますか。さすがお医者さんですね。そうです。皮膚です。あいつの。正確には、膝の上に位置する肉の一部ですね。ひひ。黒く、萎れているのはだいぶ前に切り落としたからでして。あいつは、自分の肉を常にそばに置いておきたがるので、ご利益があるように神社に奉納してあげようとか適当なこと言って、やっとのこさ持ってこれたんです。Mが自分の肉を切り取るようになったのは、三か月ほど前からでしてね。もちろん、みずから望んで、楽しんでやっています。私が強要したなどとは断じて思わないでいただきたい。気持の悪い。あいつとはもう永久に縁を切ってしまいたい。しかし、このままでは、彼女は自分を痛めつけ続けるでしょう。それは男として、黙って見ているわけには行きません。是非とも、強制入院の措置をとっていただきたい。そのために、あいつの手紙を持ってきました。昨日手渡されましてね。拾い読みしただけでわかりましたよ。完全に頭がおかしい。狂人です。先生にも御覧になっていただきたい。正直言うと、私一人では背負いきれません。助けてください。
『Aくんはキチガイです。あなたは自分自身をノミで打ち砕いて、破片を集めてくっつけて、別の人間になりきろうとしていますね。理想的な人間に自分を再構築しようとしているんです。そんな気持ちの悪いことはやめてください。そして、言葉で簡単に私を分解するのはやめてください。もう耐えられません。私のことを、キレイだとか、女はヤキモチだとか、SHISHAMOが好きだとか、生理でイライラしているとか、昔いじめられたから精神不安定なんだとか、思わないでほしい。あなたは、自分の言葉で周りのものを整理しやすいようにに切り刻んで、飾って、それを見て悦に入っているだけなんです。そして、そのナイフで自分自身の無駄な所を切り捨てて、理想的な自分に成形して、喜んでいます。私とおんなじです。あなたは目に見えないものを切って、私は目に見えるものを切っている。ほとんど変わりません。』
どうです。先生。やっぱりあいつはキチガイでしょう?」