第192期 #5
「おや、もう十時ですわよ」
というのは南の魔女。タンクトップにショートパンツ、大きなサングラスをしている。
「あら、十時なんてのはまだ宵の口よ、お嬢様」
と嘲笑うは北の魔女。カナダグースを着ている。
その言葉が気に障った南の魔女。手に持った結露したコップを強く握りしめる。
「馬鹿にしてるの? 私はあなたが目をしょぼしょぼと眠そうに瞬かせているから助言してあげたのよ。感謝が足りないんじゃない」と。
それを聞きピクッと眉を動かした。手を温めていたおしるこの缶をテーブルに置く。
丸テーブルを挟んで座る二人。境界線を挟んで一方はかんかん照り、もう一方は豪雪である。
北の魔女が口を開く。
「そういえばあなた、夏休みの課題は終わったの?」
すると南の魔女は一瞬たじろぎ、額に浮かぶ汗を拭う。手元の温度計は四十度を越している。
「あなたに言われる筋合いはないわよ! だいたい」
「本当は羨ましいんじゃないの?」
北の魔女は缶を開けながらいった。すると南の魔女は顔を太陽のように真っ赤にして叫ぶ!
「なっなんでよ! 私があなたを羨む!? ありえねえ〜! それこそあり得んわマジで!」
コップに手が当たりサイダーがこぼれる。こぼれたサイダーはテーブルの境界を超えると、たちまち氷になった。
「あら、喋り方を忘れているところを見ると図星のようね」
北の魔女は口に手を当てて笑う。それを見てキーッと更に怒る南の魔女。
「もーなんなのコイツ! 寒くて喜ぶ奴なんていないんだよ! バーカバーカ」
すると流石にイラッとしたのか北の魔女、
「はい? 何いってんの。寒さこそ至高よ」
二人の罵倒が飛び交う。するとカーディガンを羽織った少女がテーブルに近づいてきた。それを見た夏の魔女、
「......誰? あんたどっちから来たの」
少女の手にはつくしが握られている。
「あっちの寒かったり暑かったりした方向! なんというか、丁度いい感じ」
南と北の魔女は顔を見合わせる。
「てことはこの子......西の魔女?」
それを聞いた西の魔女は、大きくうなづくとつくしをテーブルに置いた。
途端、まるで夏と冬の壁がせめぎ合っていたような空間は消え、どこからか鶯の声が聞こえてきた。
西の魔女は笑っている。
辺りを困惑しながら見渡す北の魔女。しかしすぐに微笑を浮かべて南の魔女へ話しかけた。
「こういう感じでいいんじゃない?」
タンクトップを着た少女は一瞬顔をしかめながらも、また笑みを浮かべた。