第19期 #2
政府は小惑星回避に協力して下さる一般の方々を広く募集しています
十二歳以上の健康な男女
経験不問
未成年の方は保護者の同意が必要となります
あなたもこの機会に地球を救ってみませんか
「行っていーい?」
「学校は」
「……休む」
「やめなさい」
民子はこれ見よがしに溜息をついてみせたが、母は無視を決め込んで服を畳んでいる。
小惑星回避の実行場所が日本に巡ってきたのは実に十六年ぶりで、四年生の時にオーストラリアで行われたものをテレビで見て以来、それは民子の夢になった。ようやく十二歳になって、小惑星回避の話も天から舞い降りたのだ。また何年も待ち続けるなんて考えただけでも死にたくなる。
ふて腐れて、民子は自分の部屋のテレビを点けた。
迂闊だった。スペインでのやつが流れてる。
サクラダなんたら教会を取り囲んで大きな人の円が何重にもなってできている。手を繋ぎ合って、みんなすごく楽しそうだ。ああ、なんて素敵なんだろう。
涙が出てきた。どうして参加しちゃいけないんだろう。学校なんか行くより何万倍もいいことだと思うのに。
堪えられなくなって、ベッドに逃げ込んだ。もうおしまいだ。
「民子」
お父さん?
珍客にびっくりして顔を出す。何しに来たんだ。
「ごはんだぞ」
そう言われたが、民子の目は父の手元しか見ていなかった。
靴。
「お父さんっ、それどうしたの!」
声がうわずる。
「え、いや……昔な、参加したんだよ……これは、その時のだ」
言葉もなかった。
まさか、本物をこんな近くで見られるなんて。
「ちょっと見せて……」
父の手からそおっと持ち上げる。
「……わあ」
意外に重かった。それに頑丈そうだ。
「それは男用だ。女用は、もっと柔らかくて軽いぞ」
「へえ……」
テレビではちょうど、円になっていた人たちが一斉に靴を履くところだった。
初めて履く人がほとんどで、みんなよろよろしながらわいわい履いている。
履き終えて、みんなの足が地面から離れた。
浮いている。
靴を胸に抱きながら、民子はそこだけは敏感に感じ取ってテレビを見ていた。
一メートルくらい浮いて、止まる。この時、人が地面から浮いているんじゃなくて、地面の方が人から離れているんだそうだ。
こんなことで、地球を救うことができる。
民子は、靴を強く抱きしめた。
絶対参加しよう。
そう、心に決めた。