第189期 #6
以下の設問に答えよ。
45個のリンゴが34個の籠に入っている。この時、ほかの籠に入っているのは何か。
ある会社において入社試験で使われている設問である。受験者は誤植ではとまず疑うが、質問は受け付けられない。限られた時間と情報のなかで受験者は必死に考え、答えを導こうとする。問の末尾が「何だと考えられるか」や、「考えを述べよ」などで終わっていないことから、明確に答えがあると出題者は想定しているらしい。
言葉遊び的なアプローチをするもの。すなわち、本来はリンゴと同じ個数の籠が用意されていて、一つの籠に一つリンゴが入るはず(なぜ?)だったが、二個リンゴが入ってしまった籠がある。つまりリンゴが入っていない籠が45−34=11個。11個、ジュウイッコ、ジューイッコしたがってジューシーなイチゴである、と回答欄に「イチゴ(ジューシー)」と書く。
数学的なこじつけをするもの。45は素因数分解をすると3,3,5、また34は2,17である。34個の籠とは、2と17の素数で囲まれた素数の範囲であると解釈し、その中にリンゴの数の素因数分解で得られた5と3以外の素数が「ほかの籠」に入っているものであると考える。すなわち7,11,13である、として、「7,11,13」と書く。
試験対策本に忠実に時間の無駄と何も書かずに次の設問に移るもの、「何もない」と書くもの、「分かりません」と書くもの、空っぽの籠の絵を書くもの、「みかん」と書くもの、「空気」と書くもの。
これらはすべて正解である。厳密には正解ではないが、模範解答ではある。入社試験は正解を求めるためではなく、受験者を選別するためにある。この問に関しては、ほかのどの設問よりも選別基準が低い。基本的に何を書いても書かなくても、回答が全体のスコアに与える影響は皆無である。また、回答欄には計算や思考のプロセスを記載する余白はないため、回答へのアプローチで差別化をはかることは不可能である。
しかしまれに本当の正解にたどり着くものがある。なんの迷いもためらいもなく、回答を一読した出題者が一番しっくりきてしまう正解を回答欄に書くものがいる。正解を発見した出題者は、口惜しいような、うれしいような、何とも言えない顔をする。
そのような受験者はほかの設問の回答がいかに良くとも、落とされる。しかし提出された履歴書は無期限に保管されることになっている。