第189期 #5

森のくまさん

 戦争だと言うのでついて行くとそこはゲーセンだった。くまさんを撃ち抜く対戦ゲームはゲームにうとい僕でも知っていた。
「戦士は多い方がいいからな。だから初心者のおまえも誘った」
 普段、そんなに会話のない同僚の織田は画面を操作しながらそんなことを呟いた。一通りの操作を教えられ、まずは訓練コースという実際の対戦ではないコースでの飛行訓練を行った。
「なかなか筋がいい」
 織田のレベルがどの程度かは知らないが、なぜか教官のような口調で僕に言った。僕は532という数字をたたき出した。それはすごいことらしい。明日は実戦へ出るということが決まって、その日は解散となった。
 帰路、僕は何度かまばたきをした。近距離ばかり見ていたのでピント調整機能がまだ回復していない。夕日がやけににじんで見えたのでコンビニで目薬を買った。
 風呂からあがり、ニュースでは、空爆があったこと、民間人が大勢死んだことを告げていた。空爆の場所は僕の知らない外国だったが、それよりも死者の数、532という赤い数字の偶然に釘付けになった。

 次の日、ゲーセンには20人が集まった。軽い自己紹介(ハンドルネームの登録)があって、僕はそんなこと聞いてなかったから、急遽、532をハンドルネームとして登録することにした。
 戦車隊、飛行隊、戦艦隊の三つのステージがあり、どこからでもスタートできるが、定員があり、僕は一番人気のない戦車隊をあえて選んだ。なぜ、戦車隊が人気ないかと言うと、戦車は相手陣地へ直接乗り込むからで、それは相手から逃げられないこと、即ち死を意味していたからだ。途中昼飯をはさんで前後半で六時間、各隊で奪ったポイントの報告と戦況の説明のあと解散となる。一番人気の飛行隊は十人で、奪われたポイントは682、奪ったポイントは1055、戦艦隊は七人で、奪われたポイントは284、奪ったポイントは783、そして僕らの戦車隊は三人、奪われたポイントは132、奪ったポイントは498だった。総ポイント数は少なかったが、ポイント比3・77は歴代三位の成績とのことだった。
 帰路、何度か目薬をさし、コンビニでチューハイを買った。
 風呂からあがるとニュースが流れていた。昨日と違う外国の街で内戦があり戦車で民間人を攻撃したとのことで、死者は赤い数字で498だった。デジャブでも見ているかのようだったが明日も対戦がある僕は、チューハイを飲んで早々に眠った。



Copyright © 2018 岩西 健治 / 編集: 短編