第189期 #4

完璧に黙示的な気分

「君の視点はどこから?」
「私は肌から」
 蒸し暑い部屋。湿気を帯びたシーツが僕の肌に張り付く。寝転がってブローディガンを読むと天啓を受けた気分になった。
 テレビでは男女が先ほどから自分の視点について話し合っている。それは意味のないようなことに見えたし、現に意味のないことだ。
 それは誰が考える?
 と僕の思考を妨げるものがいる。それに実態はない。あるのは香りで、その香りはお風呂のにおいだった。妹が風呂に入っているのだ。僕の部屋の窓は開け放たれていて、そこから香りが立ち込めてくる。
 この蒸し暑さに対して僕が心得ていることはあんまりない。それが世間で言う怠惰だと、このときの僕はほとんど分かっていない。
 窓を開けて空を見ることは、とても直喩的な行動で、それはみらいへの開放を暗示している。「でもそれは真っ暗じゃないか」夜の空気を吸い込むと、それは沈黙を帯びて僕の肺を大理石にする。
 僕は妙に黙示的な気分だった。空の暗闇は僕を明日にいざなっているかのようだった。僕ベッドに寝転がる。意識を絶つ。暖炉の炎を消すように。



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