第187期 #8

空っぽの部屋

ガチャリ
私の部屋のドアが開く。入ってきたのは5年ぶりに見た弟だった。
「ちょっとー!昔から言ってるでしょ?部屋に入るときはノックしなさいって!」
「そういえば姉ちゃんはノックしろってうるさかったな」
「わかってるじゃない」
「この部屋も久しぶりだなあ」
「それもそうね」
「なんだ、何も変わらない部屋なんだな...」
「家具も変える気にはならなかったの!」
「姉ちゃんは、元気してた?まぁ、姉ちゃんにはそんなの関係ないか」
「年中元気みたいに言わないでちょーだい。」
「あ、そうそう、俺さ、都会の高校行ってびっくりしたよ。こんな田舎町とは全然違うんだ。」
「いいなぁ、私も行ってみたかった。」
弟は手元の袋から懐かしいお菓子の袋を出した。
「これ、姉ちゃん好きだったよな。あとで食ってくれよ...」
「うっわさんきゅー!」
「さて、俺、そろそろ行くよ。って、こんな独り言、姉ちゃん聞いてたりするのかな...」
「そっか、もう行くんだね。大丈夫、あんたの話ちゃぁんと聞いてるよ!」
「お菓子、姉ちゃんのとこ持ってくからな」
「うん、ありがと」

パタン。
久しぶりに見た弟は、立派になってたなぁ。
私の姿は見えてないし、声も聞こえてないだろうけど。
5年前、私が事故死して以来初めて会えたね。
さ、お墓の方にも来てくれるみたいだし、そろそろ戻らなきゃ。
あいつが来るから私今部屋に戻って待ってたんだし!
さーて、行こ行こ。

扉が音を立てることはなかった。



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