第187期 #11

鉄分いっぱいもりもりプルーン

 昼すぎ、打ち合わせがてらの食事から戻ってくると、机の上にメモが散乱していた。
(日中の結婚パーティで巨木が母屋に倒れた)
(人は極度に抽象化されると怒りだす)
(疲弊ゲーム化した現代社会いらない)
(もしもし魚座さん)
(助かるパスカル)
(女性が説明した後で食べる)
(鉄分いっぱいもりもりプルーン)
 一見して薄気味が悪いなと思った。そしてすぐにそう言えばと思いだした。午前中に、アルバイトの学生の女の子に企画のアイデアを出しておいてくれと頼んでいたのだった。このメモはきっとそれだ。それにしても断片的すぎだろう。
 すぐに女の子を呼んで自分のデスクに来させた。
「ブログのネタにこれ、どうやって使うつもりだったの? うちは下着屋さんだよ?」
「あ」
 女の子は謝った。そこまで考えていませんでした、って言った。考えてなかったんだ。考えなしか。
「私、この会社における守屋茜になりたいんです」
「は?」
「欅坂」
 隣の席の人が、守屋とは欅坂というアイドルグループの一員だと教えてくれた。
 そのアイドルは、考えない人なのだろうか?

 帰宅途中、女の子の考えた企画案が頭の中にこびりついてしまって、離れなかった。特にプルーン。勢いあった。自宅近所のスーパーでドライフルーツのプルーンを買ってしまい、それを見た妻に珍しいねと言われた。君の美容のためにだよと言ったが、ウソでしょと見抜かれた。
 私は妻に尋ねた。
「ねえ。人はどこまで考えなしに行動できるんだろう」
「際限ないんじゃない?」
「そうか」
 私は説明した。
 守屋になりたい女。
 暴発的な着想の紙片。
 プルーン。鉄分。元気もりもり。
「ああ、若い時の君に似てるんだ」
「ご冗談でしょう」

 翌日、プルーンさんがとても短いショートパンツを穿いてきた。みだらすぎる肌色。短すぎると注意した。そうしたら、そこまで考えていませんでしたと言って謝った。またかよ。
 私は言った。
「考えない人生は毎日が新鮮ですか?」
「考えて生きたことがないので比較できません」
 なるほど。突如として理路整然としやがる。
 彼女の人格からはまっすぐなあふれる光を感じた。
 迷いや衒いがないからかもしれない。
 じゃ考えることから屈折が生まれるってことか?
 考えないと新しい思想も技術も生まれないだろう。
 ああ新しさこそ捻じれか。
 そういえばそうだな。
 何もかも変わる必要ない。
 このあたりで私は空しくなって考えるのを止めた。



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