第186期 #7

浦島太郎

 奇異な神社は石段をのぼった山肌に沿って建っていた。この神社はカッパの剥製があることで有名であった。何を意図してカッパと称するものがつくられたのかは知らないが、現代の私が見ても魅力的で不思議なものであった。
 三人の若い女性たちが、お願いしますと言ってスマホを差し出してきた。この丸のところを押してもらえれば、と言われて、私は構図を決め言われるように画面を触った。少しぶれたかとも思ったけれど、写真を確認した女性たちはありがとうございましたと口々に言い交互に笑っていた。歓声が届く。
 平日の土産物屋は閑散としている。その店前でごついカメラを持った年配の集団とすれ違う。野鳥を撮るのだと勇んでいる。熱気を帯びる空気。

 顔にぼかしを入れればオーケーだとか、背中のショットならオーケーだとか、いや、本人が特定できる写真は背中の写真であってもだめだとか。最近ではニュース映像などにも顔のぼかし、車のナンバーのぼかしが増えた。ただ、報道の場合、個人のスナップとはまた違い、肖像権より報道の自由の方が優先される。映像が不鮮明ならまだしも、鮮明な映像であれば、いくら背後からの写真だって背格好や服装、また、撮影した場所の特定などでその個人を探し出そうと思えばできてしまう。今はスマホなどでだれもが簡単に多くの写真を共有できてしまう。無断でとられた写真は悪気なく、意図的でなく、莫大に増えてしまう。カメラがまだ宝物であった昔、写されることに権利云々を訴える者は存在しなかった。

 カメラ越しに年配者が叫ぶ。
「動物は明日を想うことができるのか」
 若い女性の一人が叫ぶ。
「それは人間だけの特権なのかしら」
 呼応する二人の女性。
「だとしたら、あまりにも混沌じゃないの」
「考えることもできないの?」
「いや、動物だって想えるはずさ。そうだろう、浦島太郎」

 四十歳は初老であると何かで読んだ。私は取り残されてしまったのか。
 私が叫ぶ。
「わたしは生きていく。その先の運命を知っていても、わたしは玉手箱を開ける」
 助けた亀の背。石段をのぼった山肌の竜宮城にはカッパの剥製。年寄衆は忙しく料理を並べている。姉妹だという三人の乙姫は交互に笑っている。
「お礼に玉手箱と剥製をどうぞ」
「カッパは海では生きられないのですから」
「決して玉手箱はお開けにならずに」
「最後に記念撮影です」
 乙姫の顔にはモザイクがかかっている。これで本人の特定は難しい。



Copyright © 2018 岩西 健治 / 編集: 短編