第186期 #6

不安、不安、安定剤



―――プツン、プツン、プツン…。

 日曜の夜、日付が変わる前くらいの若干気だるい時間になって銀色の錠剤のシートに入った薬剤を一つずつ押し出してピルケースに分けていく。フリウェルにラミクタール25mg、それとリーマス200mgが2錠。これが私の薬のルーティーン。
 ラミクタールとは子供でも飲めるような小粒で、水なしでもすぐ口の中で溶けていく変に甘い薬。リーマスはコロッとしていてやや存在感がある薬だ。因みにフリウェルは月経痛を緩和するための低容量ピルで飲み忘れをすると月経周期が狂ってしまうから、正しく飲み続けることが必須である。
 さて、始めに挙げた「ラミクタール」「リーマス」はどのような作用がある薬か当ててみて。

・ヒントは、脳に作用して働く薬。


 答えは、気分の上がり下がりの波を抑える作用を持つ「精神安定剤」という薬だ。これは、双極性障害といって以前は躁鬱病と呼ばれていた精神疾患に処方される。ようは繰り返す躁と鬱の症状を出来るだけ抑えて気分の波を小さくし、平和に過ごすことを目指す薬なのだ。だけど出来ることならこんな薬飲みたくない。薬を見る度、自分は双極性障害でありこの薬を飲み続けなければならないと認めざるを得ないのがまた嫌になる。

「 なんで "私" は 、こんなの 毎 日 毎 日 飲まないといけないの 」

 風邪薬等とは訳が違い周りに言いづらいし理解もされにくいことだから、私はこの薬を飲む事に対して少なからず引け目を感じている。
 ただこの薬のお陰で病状はいくらか改善したのは事実である。軽躁状態や鬱で不眠が続いて辛くなることは減ったし、鬱になっても深みにハマる程度がだいぶ軽くなった。ずっと望んでいた『普通で平和な生活を続けたい』という些細な願いが、ようやく続き始めている。

プツン、プツン、プツンッ………。

 グダグダどうにもならない感情をグズグズさせてたら薬の仕分けが終わった。そして今日も薬を手に取って口に放り込む。じわじわ口の中で溶け出した甘くて苦い塊の味を、急いで水で流し込んだ。
 一息ついて、今日も薬を忘れず飲み終えたという安堵感に包まれ深く息を吐き出した。私はこの薬を飲み続けることで、傾きやすい自分自身を保ちつつ生きている。時折私の心を不安定にさせる、精神安定剤。これからも長い付き合いになるだろう。



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