第185期 #6

桃太郎

 むかしむかしあるところに。
 桃柄の織物に包まれた赤ん坊は、鬼と同じ肌の色をしている。赤ん坊はひとりではない。犬柄の織物、猿柄の織物、雉柄の織物、桃柄の織物にそれぞれがくるまれている。別々の場所で育った四人の鬼子は、やがて一緒に暮らすことになる。犬は男。猿も男。雉と桃は女。成人した四人の鬼子は、まばゆく輝く満月の夜、たたらい島に住むという鬼を退治するために出発する。
 満月の夜。たたらい島には大きな方舟が浮かぶ。この方舟は海を飛び、月へ向かうのだそうだ。たたらい島の鬼は四人の鬼子を待っていたという。だから四人は鬼とともに方舟に乗る。その日を境にたたらい島の鬼はいなくなり、それから百年が経って、四人のことを覚えている者は誰もいなくなる。
 さらに百年後の桃の季節。夫婦は桃を拾うために川にいた。村に流れる川の上流には大きな桃の木があった。落ちた実は川の流れに乗って村へと運ばれた。桃の実を拾った女はそれを夫とともに食べ女は妊った。生まれた赤ん坊は桃太郎と名付けられた。桃太郎は猿柄の着物を着た竹取の翁から、かぐや、という名の妻をもらった。
 かぐやは冬の夜、織物を紡ぐと言った。そして、機織りの姿は決して見ないでくださいと言い、桃太郎はそれを忠実に守った。かぐやの織った織物は高く売れ、桃太郎とかぐやは裕福に暮らし、やがて、ふたりの間には四人の子供が生まれた。かぐやはそれぞれに、犬柄、猿柄、雉柄、桃柄の織物で着物を作って着せた。
 海岸で遊んでいた四人の子供が出会ったのは、ベッコウ売りの太郎である。ベッコウ売りは、桃柄の娘の抱えていた亀はお前たちのものかと聞いた。子供たちは口々にそうだ、そうだ、と囃し立てる。ベッコウ売りは、その亀を、乙姫からもらったこの玉櫛笥(たまくしげ)と交換してほしいと願い出た。了解した子供たちはベッコウ売りからもらった玉櫛笥を開ける。四人は当然のごとく老人になる。
 犬柄は山で芝を刈り、猿柄は竹を切る。雉柄は川で洗濯をし、桃柄は遊んで暮らした。遊んでばかりいる桃柄を三人は疎ましく思っていた。だから、三人は桃柄を箱につめて川へ流してしまう。
 川上から流れてきた箱を開けると、中には老婆が入っていた。老婆は鬼と同じ肌の色をしていた。拾い上げた夫婦は、なんだい、桃じゃなかったわ、と言って、老婆を元の川に流してしまった。この先は海であるが、竜宮城にはたぶん着かないであろう。



Copyright © 2018 岩西 健治 / 編集: 短編