第185期 #12

私立うっふん学園

 「いらっしゃいませ。ここではお客様はすべて私立うっふん学園の生徒として接客をさせていただきます。私が店長、もとい学長の大河内です。皆さん学生といってももうすでにいいお年ですが、つかの間の学生気分を楽しんでいただくため、まずは生徒手帳を配ります」

 待合室で学ランに着替えさせられたまでは良かった。そういう気分を味わいたくて紹介所でこの店を選んだところはある。私を含め待合室には5人いて、皆一揃いの黒い学生服を着ていた。一番若そうな男でも25歳くらい、上は45歳くらいだろうか。学ランの着こなしがそれぞれ少しずつ違うのが面白い。待合室の作りも教室のそれを模していて、二つ並びの机が5組、前3組後ろ2組で黒板に向かって並んでいる。
 
 一、私立うっふん学園の生徒たるもの、常に向上心を持つべし
 二、私立うっふん学園では、みんな「仲良し」であるべき

 生徒手帳に書かれた校則を読んでいると、若い女性が5人入ってきた。詰め襟を着せられて心持ち紳士ぶった気持ちでいた私たちは一気に色めきだった。皆心持ち穏やかな笑顔になる。

「おはよー」
「おはよー」

 横の席についた女が微笑んだ。「美奈だよ」美奈はそう言うと横の席について、教科書忘れちゃった、と舌を出した。もういいかと思い太ももに手を置くと非常に複雑な表情をしてその手を外す。周囲を見渡すと肩に手を回すもの、気の早いものは制服の前合わせから手を差し入れようとするものがいたがそのことごとくが拒絶にあっていた。

 大河内が部屋に入ってきて大きな声で「我々が提唱しているものはそのような仲良しではない」と叫び、男五人はばつ悪く自分の席に戻った。殺気と興奮と性欲が入り交じり、教室内には一種異様な空気が流れていた。その中で大河内は自作であろう英文詩を朗々と読み上げる。

 大河内の声質はとてもどっしりとしており、十人の生徒はしばし聞き入った。拍手を制しながら大河内は「ありがとうございました、一人五万円ちょうだいいたします」とのたまう。どよめく教室の中、勇気ある25歳が立ち上がり「私立高校はここ大阪では無償化されたはずだ」と叫ぶと、大河内は実にあっさり引き下がった。
 拍子抜けした感じで五人は店を出てそのまま居酒屋に入り、ビールでも飲みながら今の件を話そうと思ったが、詰め襟を着たままだったため入店を拒否された。



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