第184期 #3
酒場でケンタウロスと詩人が酒を飲んでいた。
「おい、ケンタウロス。馬のくせに一丁前に酒を飲むたあ、どういう了見だ?」
「別にいいだろ。それにおれは馬じゃない。白馬は馬にあらず、という言葉をしらんのか。いわんやケンタウロスをや、だ」
「詭弁だ。てめえがいつも追いかけてるのは、牝馬のプリ尻だろう?だから馬の類だ」
「そりゃプリ尻は好きだが、お前も詩人のくせに品がない。もっと粋な言葉遣いができんのか」
「ふん。おれは、言葉を売って生活してんだ。てめえが酒代だすならまだしも、一銭の得にもならんところで、雅な言葉が出てくるかよ」
「よし、一杯おごろう、おれに詩を作ってくれ」
「一杯だけじゃあ、一句だけだな、ふーむ」
悲しいかな、ケンタウロス
そは馬にあらず、人にあらず
「なんと陳腐な。詩人も大したことないな」
「ふん。酒一杯ぐらいじゃあ、この程度よ。それに、詩なんて誰でもできる。これは詩じゃ!って叫べば、それが詩よ」
「そんなもんか?」
「あとは、どれだけ言霊をのせるか、だ。てめえに詩を献じるには、てめえを知らにゃならん。どっこらせ」
「おい、あぶねえ、乗るな」
「ほう、これは発見じゃ!ケンタウロスに乗ると、前が見えん。見えるのはケンタウロスの頭じゃ!」
「耳元で叫ぶなよ、うるさい」
憂いを頭にいただき
勇猛の半身と同居す
「おれはハゲてねえよ」
「ふーむ、日焼けの跡みたいにくっきり分かれとるのう。興味深い」
「おい、境目を触るな、ぞわぞわする」
「人と馬の融合か。この理不尽の存在はちょっと羨ましくすらある」
「背中でぶつぶつ呟くな。降りろ、降りろ」
「最近は、世知辛くてのう。小説っぽい詩を書いたら、これは詩じゃないって言われるし。挿し絵をつけたら落書き詩集なんて揶揄されてよう。詩人は詩らしい詩をつくれって、あの編集担当なにもわかっちゃあいねえ」
「こいつ酒に呑まれるタイプか」
「それよ、それ」
「?」
「最近の人間はすぐ言葉で分類したがる。分類して分かった気になって安心してクソして寝るんだ」
「おれ、人間違うし。っておい、寝てんのか。詩人ってのはどうしようもねえな。しかし、この感触、なかなかプリプリしてる。詩人ははじめてだが、相手を知ることで詩ができるらしいし、偉い人は森羅万象に多情多恨なれって言ったもんだ。今夜はこれを味わって、おれも詩を吟じるか」
そして、ケンタウロスは酒代を支払うと詩人を乗せたまま、夜の街へと消えていった。